治療をしても効果・回復が見込めず、余命が残りわずかであると判断された場合、医学的には終末期と呼ばれます。しかし、終末期は患者の状態や病気などによっても異なり、期間を決めることは必ずしも簡単ではなく、また適当ではないといわれています。
この記事では、がんにおける終末期の特徴や症状、終末期と判断された後の治療について解説していきます。
一般に終末期とは、患者の回復が見込めなくなったときのことをいいます。そのため、終末期と宣告されたからといって、余命が確定したわけではありません。また、終末期の定義は下記の3つの条件を満たすことです。
ただし、患者の状態やがんの種類などによって終末期を予測・判断することは非常に難しく、実際の現場では上で述べた定義にこだわらず、患者一人ひとりの状態に合わせて判断されることが一般的です。
がんの終末期の症状にはさまざまなものがあり、がんの種類や患者の状態によっても現れる症状は異なります。
なかでも倦怠感と痛み、食欲の低下などは比較的現れる確率の高い症状といわれています。倦怠感が強い場合には、ステロイドなどの薬物療法あるいは薬物を使用しない休養などによって回復を促します。
また、耐えられないような痛みがある場合には、モルヒネなどの麻薬を用いて鎮静療法を行います。鎮静療法とは、鎮静剤などの薬剤によって、意識を低下させ、苦痛を感じさせなくする治療法で、患者の苦痛を緩和することができない場合に用います。この場合は、実施の前に患者とその家族に対して説明を行い、鎮静療法を行う意思があるかどうかを確認することが一般的です。
そのほか、食欲の低下が著しく食事を行えない場合や患者や家族からの要望があった場合には、栄養や水分を血管や静脈から投与する輸液を行うこともあります。ただし、輸液によってさらに症状が悪化する可能性もあるため、輸液を実施する前に医師と患者、家族での話し合いが必要となります。
がんの終末期は今後の治療についての判断が難しいため、治療の開始・継続・中止の判断は基本的に患者の意思が尊重されることになります。そのため、患者の意思が明確な場合は、患者がどのような治療を希望するのか、治療を中止する意思があるのかなどを文書として作成しておき、患者が判断能力を失ったときのために代弁者を立てておくことが重要です。
一方、患者の意思が明確ではない場合は、患者の日常の言動や意思を知っている家族に本人の意思を推定してもらいます。しかし、家族の中でも意見が分かれ、合意を得ることができない場合には第三者を含む倫理委員会で話し合うこともあります。
がんの終末期における治療は、緩和ケアが中心となります。緩和ケアとは、以下の4つの苦痛を和らげるための治療のことです。
緩和ケアの方法としては、緩和ケア専門の病棟に入院する、病棟などはそのままにその場で緩和ケアチームの診療を受ける、在宅医療を受けるなどの選択肢があります。病院に入院する場合、どの病棟にいても基本的に実施する内容は変わりません。在宅医療の場合、訪問看護師などの医療従事者とケアマネージャーなどの介護の専門家が協力して患者の在宅医療のサポートを行います。
また、延命治療*を続けるかどうかは、半数程度が患者主導での判断となるといわれていますが、医師と患者で話し合って決める、あるいは医師主導で判断することもあります。ただし、患者の意思が明確ではなく家族の意見もまとまっていない場合には、患者の回復が見込めない状況でも延命治療を続けることがあります。
*延命治療……治療を受けなければ死にいたる可能性があるが、寿命を延ばすために行う治療のこと
前述のとおり、終末期と宣告されたとしても余命が確定したわけではありません。その後の治療については医師の判断の下、患者や家族と話し合いながら方針を決めていくこととなります。
しかし、人生の終末期の治療において特に問題になっているのが、事前に患者とその家族間で治療方針などについての話し合いが行われていなかったり、医師が治療や回復の可能性などを説明しても患者や家族が判断することが難しかったりすることです。そのためがんにかかった場合には、終末期を迎える前に患者と家族と医療従事者がしっかりと話し合い、今後の治療の方針や終末期の過ごし方などを患者自身が決め、その内容を患者もしくは家族が文書にまとめておくことが大切です。