自己免疫疾患である原発性胆汁性肝硬変は、難病にも指定されている病気です。全国に約5~6万人の患者さんがいると推定されています。自己免疫疾患であるため、さまざまな合併症を併発することも少なくないというのがこの病気の特徴でもあります。福岡山王病院で難病治療に取り組む石橋大海先生にPBCの合併症とその治療についてお話を伺いました。
英語表記であるPrimary Biliary Cirrhosisの頭文字をとってPBCと呼ばれる原発性胆汁性肝硬変は、病名に肝硬変とあるため、肝硬変へと移行する病気だと思われていますが、全てが肝硬変へと移行するわけではありません。患者さんの約7~8割は自覚症状のないままに経過します。PBCは、その進行の度合いによって、「緩徐進行型」「門脈圧亢進症先行型」「黄疸肝不全型」 の3つのタイプに分けられます。
PBCの合併症には大きくわけて「胆汁うっ滞に基づくもの」「肝障害・肝硬変に基づくもの」「免疫異常、他の自己免疫疾患」の3つの種類があります。
〈PBCの合併症〉
①胆汁うっ滞に基づく合併症
・皮膚の掻痒感(かゆみ)
・骨粗しょう症
・脂質異常症
②肝障害・肝硬変に基づく合併症
・門脈圧亢進症(食道静脈瘤・脾腫)
・肝細胞がん
・腹水
・肝性脳症
③免疫異常、他の自己免疫疾患の合併
・シェーグレン症候群
・関節リウマチ
・慢性甲状腺炎(橋本病)、など
PBCの特徴的な症状のひとつにかゆみ(掻痒感)がありますが、これは胆汁のうっ滞によっておこる症状です。黄疸が出現する前の時期にも現れることがあります。明らかな機序は不明ですが、日中よりも夜間にひどくなることが多く、肝障害が進行するに従って軽減することが多いようです。
かゆみを完全に治す方法はありませんが、胆汁成分の胆汁酸を腸管から排除する目的でコレスチラミン(コレスチミド)という薬が処方されることがあります。ただし、この薬を投与する際は、ウルソデオキシコール酸(UDCA : ursodeoxycholic acid)投与の前後2~4時間は空けることが望ましいとされています。
一般的なかゆみ止めである抗ヒスタミン剤などによる対症療法が行われることもあります。また、最近ではオピオイドレセプター拮抗薬(ナルフラフィン塩酸塩)の有効性が確認され、PBCにも保険適応となりました。PBCの皮膚のかゆみをコントロールするにあたって期待されています。
PBCの合併症で非常に問題になるのが骨粗しょう症です。胆汁の大きな働きは脂肪の消化・吸収です。脂肪の中にはビタミンDが含まれていますが、ビタミンDは脂溶性のビタミンですので、脂肪分がきちんと消化されないと、ビタミンDが便として排出されてしまい、ビタミンD不足になるのです。
ビタミンDというのは、腸管でのカルシウムの吸収を高める働きがあります。そのため、ビタミンDが不足すると、骨がもろくなってしまい骨粗しょう症になるのです。骨粗しょう症になると、ちょっと転んだだけで骨折したり、骨折すると今度は寝たきりになったりという経過をたどってしまうのです。
PBCの好発年齢は50代の閉経後の女性です。そのため、骨粗しょう症の合併率が高いこともあって、対応が必要とされています。骨粗しょう症の予防のためにも、食事は十分なカルシウム量(1日1000~1200mg)およびビタミンD(魚やキノコ類など)の摂取が必要です。また、薬剤としては、ビスフォスフォネート製剤や活性型ビタミンD3製剤などが用いられることもあります。
PBCは胆汁のうっ滞が起こるため、高コレステロール血症を起こすことがあります。所見としては、眼瞼(まぶたのあたり)周囲に黄色腫という脂肪のかたまりができることがあります。脂質異常症に対する特異的な治療法はありませんが、ベザフィブラートという薬が使用されます。
シェーグレン症候群もPBCと同じく自己免疫疾患の一つです。主な症状は目の乾燥、ドライアイや口の乾燥などです。涙が出なくなる、唾液が出なくなるといった症状が出てきます。
PBCの合併症としてシェーグレン症候群は多くみられますので、SS-A抗体、SS-B抗体の測定や、角膜びらんの有無のチェック、口唇生検などで診断します。目の乾きなどの症状に対しては人工涙液を使ったり、ピロカルピン塩酸塩、塩酸セベメリンなどを用いたりします。口腔症状に対しては人工唾液を使用し、それで効果がない場合、ピロカルピン塩酸塩、塩酸セベメリンを使用します。