自己免疫性肝炎は、難治性の肝臓の病気のひとつで、中年以降の女性に好発します。日本における推定患者数は約1万人で、英語表記のAutoimmune hepatitisの頭文字をとってAIHとも呼ばれています。治療の開始が早ければ薬がよく効きますが、治療が遅れると予後にも影響を及ぼします。自己免疫性肝炎について、福岡山王病院で難病に取り組む石橋大海先生にお話をうかがいました。
肝炎によって肝細胞が障害されていく難治性の肝疾患で、慢性的な経過をたどります。
中年以降の女性に好発する原因不明の病気で、自己免疫が関与していると考えられています。臨床的には、自己免疫性肝炎に特徴的な抗核抗体や抗平滑筋抗体といった自己抗体が陽性であることや血清IgGの高値を高率に伴います。
発症に関しては、急性に起こる場合と慢性に経過するタイプの2種類があります。
無症候性で経過するため自覚症状がなく、健診などを受けた際に肝細胞の障害を反映するAST(GOT)やALT(GPT)の値が上昇することによって発見されることも少なくありません。長期にわたって気づかないまま経過して肝硬変に進行し、診断時に浮腫や腹水などの症状がみられることもあるのです。
多くは,気づかずに慢性に経過した肝炎が急に増悪する場合が多いのですが,必ずしも抗核抗体や血清IgGの高値を示すわけではないため、診断が遅れてしまうことがあります。その結果病状が進行してしまい、肝不全となってしまうケースもみられます。
多くの場合、薬物治療が行われますが、副腎皮質ステロイドであるプレドニゾロンが非常によく効きます。プレドニゾロンを投与することによって肝機能は速やかに改善しますが、治療の開始が遅れた場合の有効性は低下します。また、少数ですがステロイドを投与しても改善しない副腎皮質ステロイドに抵抗性を示すケースも20%程度にみられます。
正確なデータがないためはっきりとしたところはわかりませんが、全国で約1万人(2005年に行われた全国調査によると、2004年の1年間に自己免疫性肝炎と診断された患者さんの数は9,533人)と推定されています。以前の調査と比較しても患者数は増加傾向にあるようです。
欧米では、自己免疫性肝炎が慢性肝炎の主な原因とされていますが、日本では比較的稀であるのが現状です。頻度について示すと、慢性肝炎患者さんのうち自己免疫性肝炎の占める比率は1.8%、女性に限るとおよそ4%と推定されています。
また、肝硬変においては自己免疫性肝炎が1.9%を占めており、女性に限定するとその比率は4.3%となっています。日本における主な慢性肝炎の原因としてはC型肝炎やB型肝炎、最近では飲酒者にみられるアルコール性肝障害および,非飲酒者にみられる非アルコール性脂肪肝炎などが挙げられます。
自己免疫性肝炎の男女比をみると、1:6~7と圧倒的に女性に多く、40代や50代および60代がピークとなっています。
また、自己免疫性肝炎の特徴のひとつは子どもにも発症するということです。同じ肝臓の自己免疫性疾患で難病である原発性胆汁性胆管炎(PBC)(※2016年、原発性胆汁性肝硬変から病名が変更されました)では20歳以下での発症は非常に稀ですが、自己免疫性肝炎は20歳以下、特に9歳以下といった小児でも発症します。
他の目的で行った血液検査で肝機能の異常が偶然みつかったというケースが多いようです。この背景には、小児科の医師の間でも自己免疫性肝炎が認知されるようになったことがあると考えられます。しかし、小児での発症は大きな問題です。というのも治療薬である副腎皮質ステロイドにはさまざまな副作用があり、成長に障害をおよぼすことが懸念されるからです。