自己免疫性肝炎は難治性の肝疾患のひとつで、肝臓をターゲットに免疫が攻撃を行います。薬がよく効くため早期の治療開始が重要ですが、自覚症状がないことも多く診断時には進行した状態で発見されることも少なくありません。福岡山王病院で難病治療に取り組む石橋大海先生に、自己免疫性肝炎の原因や症状についてお話を伺いました。
原因は不明ですが、発症の起点あるいは進展には自己免疫が関与していると推測されています
その理由として挙げられるのは、自己免疫性肝炎では抗核抗体が陽性であることやγグロブリンが高値であること、さらには慢性甲状腺炎や関節リウマチ、シェーグレン症候群など他の自己免疫疾患を合併していることに加えて、ステロイドが非常に有効だということです。
特に日本人では、症例のうちおよそ60%の方に白血球の型のひとつであるHLAのDR4陽性がみられるため、何らかの遺伝的素因が関与していると考えられています。ただし、明確な原因遺伝子の確定はされておらず、DR4の陽性が多いとはいっても、全ての患者さんがそうであるわけではないため、自己免疫性肝炎は遺伝的な素因(遺伝要因)があって、それに何らかの誘因(環境要因)が加わって発症するものと考えられます。
自己免疫性肝炎は、肝細胞そのものが攻撃対象であることはわかっているものの、より詳しい分子レベルにおけるターゲットが判明しているわけではありません。そこで現在、網羅的な遺伝子解析による方法で、原因となる分子をつきとめる取り組みが進められているところです。
全身の倦怠感(つかれ)や易疲労感、食欲不振など、一般的な肝炎の症状と何ら変わることはありません。肝障害が著明な場合は黄疸などの症状が現れることもあります。
一方、自覚症状をともなわずに健康診断などで偶然に肝障害を指摘されることも少なくありません。慢性的に経過する無症候性タイプの肝炎で、血液検査において肝細胞の障害を示すAST(GOT)やALT(GPT)の値が上昇することで発見されます。
B型肝炎やC型肝炎も同様ですが、「肝臓は沈黙の臓器」といわれるように、無症候のまま進行する状況が自己免疫性疾患でも同様に起こります。高齢者などで長期にわたって気づかないまま肝硬変に進行してしまい、診断時から浮腫や腹水といった肝硬変にともなう症状がみられることもあるのです。
自己免疫が原因となって起こることはわかっていますが、病気が進行していくメカニズムについてはまだ解明されているわけではありません
B型肝炎やC型肝炎などウイルス性の肝炎であればウイルスを除去すればよいのですが、ターゲットである肝臓を免疫が攻撃する自己免疫性肝炎の場合は、原因がからだの中にあって取り除くことができないため、この攻撃は生涯続くことになります。
発病は一般的に緩やかで、自覚症状が現れないことも多く,健康診断などの血液検査で偶然に発見されることがある一方で、黄疸や倦怠感,発熱など,急性肝炎の症状が強くみられることがあります。診断されずに治療の開始が遅れると肝障害が進行して、肝硬変から肝不全にまで至ってしまいます。
診断され,適切な治療が行われた場合においては、ほとんどの患者さんで肝臓の炎症は速やかに改善され、また病気の進行もみられなくなります。過去の調査によると、治療を適切に受けている患者さんの死亡率は、自己免疫性肝炎に罹患していない一般の方と変わらないことがわかっています。