関節リウマチは、原因こそ分かっていないものの、治療薬の進歩により、寛解(症状が起きない状態)を目指すことが可能になっています。また、これまでは病状が進行した患者さんに対して外科的治療が行われてきましたが、現在では薬物療法も同様の進歩を見せています。ここでは、関節リウマチの治療法について、国立病院機構 横浜医療センター 膠原病・リウマチ内科 部長の井畑 淳先生に詳細を解説していただきます。
今日のリウマチ患者さんが、関節リウマチの症状が出なくなる“寛解”状態を維持できるようになったのは、治療薬の進歩のおかげと言っても過言ではありません。
関節リウマチの治療薬は、リウマチの原因である免疫反応を調節する“抗リウマチ薬”と、炎症を抑える“抗炎症薬”に大別できます。
リウマチの原因となる免疫反応を抑制したり、免疫調節を行ったりすることによって効果をもたらす薬剤です。根本的な原因にはたらきかけるお薬ともいえますが、間質性肺疾患・骨髄抑制・肝機能障害などの副作用が起こり得ますので、医師は経過を観察しながら、慎重に投与を行います。
一番広く行われているのは、葉酸代謝拮抗薬といわれる薬剤(メトトレキサート)を週に1~2日内服する方法です。他に、サラゾスルファピリジン、ブシラミン、タクロリムスなどといった治療薬が用いられます。
標準的抗リウマチ薬は、現在も診療のうえで使われていますが、より効果的な治療薬について研究が進められてきました。その結果、発明されたのが“生物学的製剤”です。従来の薬剤のように化学合成した物質ではなく、生物工学的に加工された細胞から作り出した物質に由来するため、このような名前で呼ばれています。
生物学的製剤は、おおまかに言うと炎症を広げる“サイトカイン”と呼ばれる物質や炎症を伝える信号を直接ブロックすることによって、炎症を抑えるという特徴があります。診療のうえでもっとも広く使われているのは、炎症を引き起こす免疫細胞に結びつくサイトカインである“TNFα”を阻害する、TNF阻害薬です。これは、最初に開発された生物学的製剤のため種類も多く、実際の診療でもデータが集まっており、安定した効果が期待できるとして注目を集めています。TNF阻害薬の代表的なものとして、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ 、ゴリムマブ、セルトリズマブペゴルなどがあります。また、その他にも同様の治療効果を示す生物学的製剤としてトシリズマブ、サリルマブ、アバタセプトがあります。
最近では、生物学的製剤と同じように炎症に関係する分子を標的としたJAK阻害剤という薬が開発されました。こちらも生物学的製剤と同じくらい効果があると考えられているため、患者さんの選択肢が更に広がっていることは間違いありません。
ただし、これらの分子標的薬は免疫に直接はたらきかける薬剤のため、細菌感染などを起こしやすくなるというデメリットもあります。期待できる効果も大きいけれど、副作用のリスクも高い薬ということで、医師の指導のもとに正確に使う必要があります。また、一般的に高価なお薬でもあるため、(健康保険を利用して3割負担でも年間50万円程度)患者さんの経済的負担が大きくなるというデメリットもあります。
標準的抗リウマチ薬は、効果が現れるまで一定の時間を要します。そのため、早期に激しい炎症が生じた場合などは標準的抗リウマチ薬の効果が現れるまで、ステロイドを投与して炎症反応を抑えることがあります。
ステロイドのメリットはその即効性にあります。また近年では、活動性が高い早期のリウマチに対して、6か月以内に中止する計画でステロイドを使用すると、骨の壊れ方が少なくなるという報告があります。ただし、ステロイドは投与量と投与期間によって、感染症・骨粗しょう症・胃潰瘍・中心性肥満・糖尿病・脂質異常症(高脂血症)・高血圧などといった、多彩な副作用を生じさせます。したがって、他の抗リウマチ薬が効果を現すまでの間のみ、一時的に使用されるのが通例です。
関節リウマチの症状である炎症を鎮め、痛みや腫脹を抑える薬剤です。炎症を抑える薬剤は、非ステロイド系抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs: NSAIDs)とステロイドに大別できます。一般的にステロイドは炎症を鎮める作用が強いですが、的確に使用しないと、骨がもろくなるなどの副作用を起こすことがあります。そのため、医師が診察を重ねたうえで、患者さんにとってもっとも効果が高く、かつ副作用が少ない方法が取られます。
非ステロイド系抗炎症薬のメリットは、ステロイドのように、一定以上の内服を行っても感染症・骨がもろくなりやすいなどの複雑な副作用が出ないということです。
非ステロイド系抗炎症薬は、疼痛や発熱の原因となる“プロスタグランジン”という物質の産生を抑制する効果があります。ただし、消化性潰瘍の副作用には注意が必要とされています。
また、非ステロイド系抗炎症薬を使っても免疫反応そのものは改善されないので、基本的にリウマチの末期症状である関節の破壊を抑制する効果はありません。
何らかの理由で他の抗炎症薬が使えない場合、ステロイドを使う場合があります。ステロイドは、免疫反応を抑えるため、痛みをとるだけでなく、炎症を抑えてくれる作用があります。ただし上記のようなさまざまな副作用があるので、漫然と使い続けないことが重要です。
関節リウマチが進行すると、関節の機能が破壊され、歩行や運動が困難になります。また、手指のような小さな関節が壊れると、財布から硬貨を出すなどの細かな動きができなくなります。
これらの患者さんの生活の質(QOL)の低下を根本から改善させる方法として手術があります。手術の種類としては人工関節を入れる手術と自分の骨を生かした手術があります。
生物学的製剤の発明により、大きな関節の機能が損なわれるまでに至るケースは少なくなったといえます。特に、股関節や膝関節といった大きな関節の機能が失われ、人工関節を入れるケースは減っているとされています。しかし一方で、手術療法の進歩により以前は手術ができなかった関節に対して手術ができるようになってきました。指や肘などはその代表的な例です。また、指に関しては手術により機能的な改善が期待できるだけでなく、変形が目立たなくなり人前に手が出せるようになったなどの美容的・心理的によい効果を得られることがあります。上記のように、手術は主に機能を改善させるために行われますが、炎症が強く壊れた関節自体を取り除き、人工関節に取り替えることによって、結果として痛みや炎症を軽減でき、関節リウマチのコントロールがよくなることもあります。
関節リウマチで行われる手術は以下のとおりです。
リウマチによって病状が進行した関節を切り取って、人工関節と取り換える手術です。関節の可動域が回復するため、日常の動作に困難が生じている患者さんに行われることが多い手術です。主に、股関節・膝・肘・肩・足などの関節に行われます。ただし、肩はもともと可動域が広く、複雑な動きをする関節のため、手術成績がまだ安定していません。
関節リウマチが進行して腫れた滑膜を取り除く手術です。関節の腫れや痛みが軽くなるメリットがあります。ただし、手術後に再び滑膜が腫れて、症状が再発する可能性もあります。
文字どおり、関節を固定する手術です。関節の可動域が制限されてしまうデメリットはありますが、痛みを和らげることができ、関節を安定させるメリットがあります。主に頚椎が変形して神経を圧迫する危険があるときや、手首や足首が壊れて不安定になっているときなどに行われます。
関節リウマチで起こる関節の変形のうち、もっとも頻発しやすいのは手指です。手指の変形は、患者さんが生活を行ううえで支障をきたすことが珍しくありません。
装具などで固定する保存療法は昔から行われてきましたが、現在では指の関節を人工関節に置換する手術も行われています。100%の機能回復や変形の改善は困難だとされているものの、今日ではシリコン製や金属等のさまざまな人工指関節が開発されており、関節の状態に応じた人工指関節を使用することで、機能や外観の改善が可能となっています。ただし、指の関節は複雑な動きが可能なため、手術を行った場合は、リハビリテーションが大変だといわれています。具体的には“ダイナミックスプリント”といったギプス状の器具をつけて、根気よくリハビリテーションを行う必要があります。
近年、早期のリウマチに対して積極的にリハビリテーションを行うと、筋力の低下や関節の拘縮を防げる可能性が高いことが分かってきました。そのため、リハビリテーションはタイミングを見計らって慎重に行う必要があります。
関節リウマチのリハビリテーションは、理学療法(物理療法・運動療法)・作業療法・装具療法に大別されます。それぞれの方法は、目的が違っており、病状によってリハビリが分かれてきます。
リハビリテーションはそれを通じて、関節に負担をかけない生活上の動作を理解できる機会となっています。そのため、正確なリハビリテーションは欠かせないものと考えられるようになっています。
これまで紹介したとおり、関節リウマチの薬物療法はいろいろな薬を組み合わせて行われます。また、治療効果の判定・手術のタイミング・リハビリテーションの指導を含めて、正しい知識をもとに、筋力低下のための運動や関節を保護する動作などを日常の生活のなかで励行することが大事です。
専門的な治療や生活上の指導が受けられる信頼できる病院を探すためには、長年にわたってリウマチの患者さんをサポートし続けている日本リウマチ友の会に相談したり、リウマチ財団の登録医や日本リウマチ学会認定 リウマチ専門医の所属している病院に受診したりするとよいでしょう。