甲状腺機能低下症は女性に多い病気ですが、まったく症状を引き起こさないケースもあり、なかには治療が必要のないケースもあります。甲状腺機能低下症はどのようなときに治療をすべきなのでしょうか。すべきときにはどのように治療をするのでしょうか。甲状腺機能低下症の治療について、昭和大学藤が丘病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 助教の杉澤千穂先生にお話をお聞きしました。
レボチロキシンという薬は甲状腺ホルモン製剤です。不足した甲状腺ホルモンを内服することにより補充していきます。
1日1回内服します。最初は少量からスタートし、定期的に血液検査をしながら少しずつ内服量を増やしていきます。どれくらいの量を飲むべきかは人によって異なります。飲み始めてもすぐに効果を示す薬ではなく、安定した効果を得られるまでに時間がかかります。
レボチロキシンは非常に副作用の少ない薬です。薬のコーティング剤(薬を飲みやすくするため、糖類などの膜になるもので薬のまわりをコーティングしている物質)に対するアレルギーはありえますがそれすらも多くはありません。ただし、誤ってレボチロキシンを多く飲み続けてしまうと、逆に甲状腺機能亢進症の症状が出現することがあります。それでも、これもきちんと医師と相談しながら内服をしている人にはまず起きません。
甲状腺ホルモン製剤の過剰摂取でよくあるのは、外国から輸入されるような「やせ薬」の成分に入っていて、知らないうちに過剰摂取してしまうことです。甲状腺ホルモンが過剰になると代謝が上がってやせる作用があるため、海外のやせ薬には含まれていることがあります。これらのやせ薬を飲み過ぎて、それが原因となり不整脈で死んでしまうことすらあるので、注意しましょう。
飲み合わせについては注意が必要です。レボチロキシンの吸収を妨げる内服薬(マグネシウム製剤・アルミニウム製剤・鉄剤など)との飲み合わせには注意しましょう。これらの薬をどうしても併用しなければならない場合は、内服する時間をずらして飲むことが必要です。
甲状腺の機能が低下し、甲状腺ホルモンであるFT3やFT4が低下してくると、TSH(甲状腺刺激ホルモン)が脳から出て、甲状腺を刺激してなんとか甲状腺ホルモンを出そうとします。きちんとTSHが出て甲状腺機能低下が代償されている(補われている)状態では、治療の対象とならず、様子を見ることができる場合も多くあります。治療を開始する目安は、TSHが10を超えた場合です。TSHが一桁台であれば様子をみることが多いです。しかし自覚症状によっては、TSHが10未満であっても、治療を開始する場合があります。後述するように、甲状腺の機能は低下していてもTSHが代償している状態を潜在性甲状腺機能低下症といいます。
きちんと薬を飲めば甲状腺ホルモンは十分にコントロールできます。「薬を完全にやめられるのか?」という点については完全に経過は人それぞれです。甲状腺ホルモン製剤の内服をやめられる方もいますが、経過によってはやめられない方もいます。
甲状腺機能低下を放置しても何も身体に悪影響がない患者さんがいます。一方で、流産や早産が増えるデータもあります(参照:「橋本病など甲状腺機能低下症と妊娠、日常生活の注意点」)。患者さんが置かれている状況によって対応は異なり、一概に「放っておくとこうなる」ということはできないのが現状です。
潜在性甲状腺機能低下症は治療すべきか
子どもがかかる病気と治療⑨ やせ/糖尿病/甲状腺機能低下症・亢進症/ケトン性低血糖症・アセトン血性嘔吐症