齋藤淳先生の記事では、「甲状腺機能亢進症(バセドウ病)」についてご説明してきました(参照:「甲状腺機能亢進症(バセドウ病)は女性に多い病気―概要・原因・検査」)。
ここからは甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の逆の症状を現す病気「甲状腺機能低下症」についてご説明します。甲状腺機能低下症も女性に多い病気ですが、まったく症状を引き起こさないケースもあります。甲状腺機能低下症とはどのような病気なのでしょうか。昭和大学藤が丘病院 糖尿病・代謝・内分泌内科 助教の杉澤千穂先生にお話をお聞きしました。
甲状腺機能低下症とは、慢性的な甲状腺の炎症などにより甲状腺ホルモンが出なくなり、活動性が大きく低下するとともにむくみや全身のだるさなどが出現し、活気がなくなる病気です。女性に多く男女比は1:10程度と言われています。健康診断で成人を対象にして甲状腺機能を調べてみると、0.5%程度の方が甲状腺機能低下症と診断されると言われています。
甲状腺機能低下症というと「橋本病」をイメージする方も多いと思いますが、厳密に言うと甲状腺機能低下症=橋本病ではありません。たとえば、子どもに見られる先天性の甲状腺機能低下症は「クレチン病」と呼ばれます。「バセドウ病」の手術後にも甲状腺機能低下症になることがあります。
ここからは、最も患者数が多く代表的な甲状腺機能低下症である橋本病について説明していきます。(あくまでもすべての橋本病が甲状腺機能低下症を来すわけではなく、橋本病と診断される方の多くは甲状腺機能は正常です。)
まだ詳しい原因はわかっていませんが、自己免疫性と言われています。自己免疫性が原因となる病気は、本来ならば体を守るべき「抗体」が器官や組織を誤って攻撃してしまうことによって起こると考えられており、甲状腺機能低下症もこのカテゴリーに分類されます。このように自分を攻撃する抗体を「自己抗体」と言います。大まかには「免疫系の誤りにより自己抗体が甲状腺を攻撃する」と理解しましょう。なお、家族内発症が多いことが分かっており、遺伝が関係あるのではないかとも考えられています。
甲状腺機能低下症の代表的な症状としては、甲状腺が全体的に大きくなり、硬いことが特徴であり、健康診断で見つかる場合もあります。一方で甲状腺が萎縮したり、硬くない人もいるため、甲状腺の見た目や触れ方だけで判断することはできません。
血液検査で見られる傾向は、主に以下の3点です。
また、抗甲状腺抗体(甲状腺に対する自己抗体:自分の甲状腺を誤って攻撃してしまう抗体)が陽性になることがあります。しかし、これが陽性だとしても、必ずしも甲状腺機能低下症になるとはいえません。甲状腺に対する自己抗体の陽性者は人口の18%もいると言われています。しかし、その中でホルモン補充を要するような方は10%にも満たないと言われています。
一般的には甲状腺の超音波検査で甲状腺の大きさや血流、がんがないかなどを調べます。