脂質異常症は、健康診断などの際に血液検査で見つかることが多いため、検査値の意味や診断基準を理解し、健康管理に役立てていくことが大切です。山王病院内科部長の岸本美也子先生に脂質異常症の検査や診断、治療の管理目標値などについてお話をうかがいました。
LDLコレステロールの値は中性脂肪<400mg/dl の場合、次のFriedewald(フリードワルド)の式から求めます。
これは、大規模臨床研究の結果がいずれもこの式から得られたLDLコレステロール値に基づいているためです。ただし、中性脂肪>400mg/dl の場合はこの計算式が使えませんので、LDLコレステロールの直接測定法を用います。
中性脂肪(トリグリセライド:TG)は、グリセロールに脂肪酸がエステル結合したものです。TGの値は食事の時間や内容、アルコール摂取の影響を受けるため、原則として10~12時間以上絶食し、空腹時に採血を行います。
健康診断のときに計測されるのは、食事から取り込まれた中性脂肪(外因性トリグリセリド)ではなく、余分なエネルギーとしていったん肝臓に取り込まれた脂肪が再び血液中に分泌された中性脂肪(内因性トリグリセリド)の値になります。したがって、健康診断の前日は20時以降の食事や飲酒を制限し、当日の朝食を抜いて受診する(検査前10~14時間は絶食にする)必要があります。要再検査になるケースは、うっかり検査当日に朝食を食べてしまい、外因性の中性脂肪により検査値が高くなった場合が多いようです。
健康診断で採血をする前にもし食事を摂ってしまったら、検査結果は役に立たないのかというと、そんなことはありません。1日3食の通常の生活では、食後にTG値が一時的に上昇しても6〜8時間で空腹時の値に戻ります。食後のTG値が異常に高い値を示し、食前の状態まで戻らない状態を食後高脂血症(食後高TG血症)といい、冠動脈疾患や突然死のリスクが高くなるとされています。
また、外来での診察時には、二次性脂質異常症(関連記事「脂質異常症の原因」参照)の原因となる糖尿病や甲状腺機能亢進症などについて、問診でチェックすることも重要です。脂質異常症の方には他の疾患が隠れている可能性があるため、内科一般の検査はひと通り行うことになります。
空腹時の血液中に含まれる脂質の値によって以下のように定められています。
ただし血液中に含まれる脂質は、遺伝的な素因だけでなく栄養状態などの後天的因子で変化するため、健康な方の平均値も時代や生活環境によって異なります。したがって、基準値は他の臨床検査値と異なり、いわゆる健常人の平均値から求めるのではなく、その値を超えると将来、動脈硬化性疾患の発症危険度が高まるという境界によって定められています。
※TGが400mg/dl以上や食後採血の場合はnon-HDLコレステロールを使用する。Non-HDLコレステロール=総コレステロール-HDLコレステロール
LDLコレステロールが140mmHg未満であっても120~139mmHgの間であれば境界域に該当し、高血圧や糖尿病など動脈硬化を引き起こす他の病気がないか注意が必要です。また、脂質異常症の診断基準値はスクリーニング(治療が必要な方を選び出すふるい分け)のためのものであり、薬物療法を開始する目安ではありません。
女性ホルモンとして知られているエストロゲンには、LDLコレステロールの分解と排泄を助けるHDLコレステロールの合成を促すという作用があります。このため、閉経によってエストロゲンが低下するとコレステロール値が高くなることがあります。
しかし、「閉経後の女性の高LDLコレステロールが動脈硬化のリスクとなるのは糖尿病や喫煙習慣などの要因が重なったときであり、もしこれらの要因がなく、LDLコレステロールが高いだけなら、ただちに動脈硬化そのものや動脈硬化による心血管のリスクであるとはいえない」という見解もあります。
女性は男性に比べて動脈硬化性疾患の発症リスクが低く、必ずしも薬物治療が必要な場合が多いわけではありません。食事や運動療法の効果が期待でき、しかも治療に取り組む意欲が比較的高いので、生活習慣の改善を最大限に図っていくことが大切です。ただし、高リスク病態が存在する場合はこの限りではありません。
脂質異常症の他にも糖尿病や高血圧などの危険因子(リスクファクター)をもっていると、それだけ動脈硬化になる危険性が高まることが知られています。
また、狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患になった経験がある人は、再発も心配されます。そのため、脂質異常症の他には何も異常がない方に比べると、さらにコレステロール値を下げなくてはなりません。
※日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版より引用