マイコプラズマ肺炎の初期症状には、38度以上の高熱や乾いたしつこい咳などがあります。聴診器で聴診しても注意深く聞かないと呼吸音の異常が軽微であったり、画像も淡い陰影であったりするため、初期段階では風邪などと間違われやすく、見逃されてしまう例も多いことがマイコプラズマ肺炎の抱えるひとつの問題点です。より早く確実にマイコプラズマ肺炎を診断する方法はあるのでしょうか。今回は、マイコプラズマ肺炎の検査法それぞれの特徴と問題点を、国際医療福祉大学塩谷病院内科部長(呼吸器)の井上寧先生にお伺いしました。
マイコプラズマ肺炎を診断するためには、まず咳やくしゃみ、咽頭痛や発熱といった感冒(かぜ)症状を訴えて来院された人の中から、肺炎の患者さんを見逃さないよう見極めることが重要です。医師は、X線検査で肺に影があるだけ、もしくは炎症反応の上昇だけで肺炎と決めつけず、身体所見をよくみること、そして原因となっている起炎菌を想定する努力を惜しまないことが大切です。これらを軽視してしまうと、肺結核を見逃したり、適切な治療選択までに時間を使ってしまい、症状を重症化させてしまうことにも繋がるのです。
ペア血清とは、症状が最も激しく出る「急性期」(発症初期)と、約2週間後の「回復期」の2回にわけて血液検査を行い、「抗体価」の上昇を診る方法です。私たちヒトを含む動物は、ウイルスに感染すると血清中に抗体を産出します。2回の検査で抗体価が4倍以上上昇していることが確認できれば、マイコプラズマ感染症であると確定診断することができます。
しかしながら、この検査結果が判明するまでには3週間近い日数がかかるため、迅速性を要する治療前の診断時には不向きといえます。
ただし、治療後、たとえば学校や会社などへ診断書の提出が必要な場合に、ペア血清検査の結果を確認して診断を確定することもできますので、全く意味がないというわけではありません。
IgG抗体よりもIgM抗体のほうが早期に上昇するため、マイコプラズマ肺炎の急性期の診断はPA法で行います。前項ではペア血清で抗体価が4倍以上上昇していれば確定診断を下せると述べましたが、臨床の現場では単一血清(1回の血清検査の値)しかとれないケースも多々あります。その場合は、PA法が320倍以上、CF法が64倍以上で陽性と考えます。
近年では、血中のマイコプラズマのIgM抗体を調べる「IgM抗体検出法迅速診断キット(イムノカードマイコプラズマ抗体/以下、IC検査)も、短時間で結果が得られることや、一度の血液検査で済むことから注目を集めています。しかし、イムノカードマイコプラズマ抗体が本当に正確にマイコプラズマ肺炎を診断できる検査法といえるかどうかは検討段階であり、この検査法が一人歩きしてしまうことには問題があります。
たとえば、呼吸器学会で上田竜大先生(国際福祉大学三田病院呼吸器センター)が発表された「イムノカードマイコプラズマ抗体についての検討」では、603例のIgM抗体を測定した調査報告が示されています。それによると、PA法のIgM抗体価と相関がみられた陽性例118例中、本当のマイコプラズマ肺炎であった例はわずか1例のみであったというデータが示されています。このことからも、イムノカードマイコプラズマ抗体のみでは誤った臨床診断を下してしまう可能性があるとわかるため、医師は検査の特徴と限界を理解し、一検査のみに頼らず慎重に診断を下す必要があるといえます。
(※本記事は、成人のマイコプラズマ肺炎について取材・執筆したものです。小児のマイコプラズマ肺炎については関連記事「マイコプラズマとは―どんな病気を引き起こす細菌なのか」をご覧ください。)
現在一部の高次機能施設で取り入れられている検査法は、LAMP(ランプ)法と呼ばれる遺伝子検出法です。LAMP法とは、綿棒で患者さんの咽頭から検体を採取し、マイコプラズマ・ニューモニエの特異的DNAを検出する遺伝子検査のことです。発症2日目頃からDNAを検出できるため、非常に迅速かつ正確性も高い検査法として普及しています。また、小児にとっては痛みがないといったメリットもあります。
マイコプラズマ肺炎を疑った際にまず行う検査は、胸部レントゲン撮影です。乾いたしつこい咳などの症状があるうえに、胸部レントゲンで異常が見つかった場合には、必要に応じて健康保険が適用されるマイコプラズマの検査(①迅速診断法 ②核酸増幅法 ③血清抗体価測定)を行って、マイコプラズマ肺炎を特定していきます。