狭心症と診断されて治療を受けたら、それで完全に狭心症が治ったというわけではありません。本当に大切なのは、治療を受けた後なのです。ここでは狭心症の治療について、福岡山王病院 病院長兼循環器センター長の横井 宏佳先生にお話を伺いました。
狭心症の治療には、大きくわけて薬物療法・カテーテルインターベンション治療(PCI : 経皮的冠動脈形成術:胸を開いて手術を行わずに、カテーテルを用いて体の負担を少なくして治療を行う方法)・冠動脈バイパス手術(狭くなった冠動脈に、体の他の部分にあった血管をつなげて迂回路を作る手術)臓の負担を和らげる「β(ベータ)遮断薬」や、冠動脈を広げて血流をよくしたり心臓への負担を軽減したりする「血管拡張薬」などが使われます。血管拡張薬にはカルシウム拮抗剤と硝酸薬があります。
薬物による治療は非常に進化しています。最近も、薬物療法に関する無作為化比較試験の結果が世界的に著名な「NEJM(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)※」という医学誌に発表されたところです。この研究は、「薬物治療のみ」のグループと「薬物治療とカテーテル治療を併用」したグループとに患者さんを無作為に割り付け、10年間の予後( 病気や治療などの医学的な経過についての見通し)について追跡調査を行いました。そしてその論文によると両グループ群の治療法における予後に差は見られなかったというものでした。
※Effect of PCI on Long-Term Survival in Patients with Stable Ischemic Heart Disease (NEJM 2015 ,373 120)1937-46
一方でこれまでは重症な「左冠動脈主幹部変(広範囲の心筋虚血を引き起こす病気)」などの場合には、冠動脈バイパス手術が行われてきましたが、最近は低侵襲なカテーテル治療の進歩によって、重症度の高い症例においてもカテーテル治療で治すことができるようになりました。
「カテーテルインターベンション治療」とは、足の付け根の血管から、折りたたんだバルーン(風船)がついたカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し、管が血管の閉塞部位にまで到達したら、バルーンを膨らませて血管を拡張させ、ステント(金属製の網状の筒)を留置する治療法です。
また、冠動脈バイパス手術は、狭くなった血管の先にグラフトと呼ばれる新しい血管をつなぐ手術のことで、グラフト(血管)には足の静脈などが使われます。
薬物治療・カテーテル治療・バイパス手術も治療を受ければ、それで完全に治ったと思っておられる患者さんは少なくありません。しかし、本当に大切なのは治療を行った後なのです。胸が痛む・圧迫感があるといった症状は、病気を発見するための「きっかけ」にすぎません。例えば、冠動脈が狭くなった部分にステントを入れたら、その後は何をしても大丈夫というわけではないのです。
運動を定期的に行う・禁煙する・脂っこい食事を控えるといったように、生活習慣を改善しなければ、再び狭心症や心筋梗塞を起こしてしまいます。それでは治療を行った意味がありません。薬物治療をはじめとする「治療」と「生活習慣の改善」は一緒に行わなければならないのです。
しかし、生活習慣の改善を患者さん一人で行うというのは難しい面があるのも事実です。そこで生まれたのが包括的な「心臓リハビリーション」という概念なのです。これについては記事5でお話しいたします。