狭心症の典型的な症状は胸の痛みや圧迫感ですが、最近は症状の出ない狭心症も増加傾向にあります。また、高齢者に多いイメージの狭心症ですが、近年は若年層における狭心症が増えています。狭心症の現状や診断について福岡山王病院 病院長兼循環器センター長の横井 宏佳先生にお話を伺いました。
心臓を取り囲んでいる冠動脈が動脈硬化や血栓などで狭くなり、血液の流れが悪くなると、心臓の筋肉に必要な酸素や栄養がいきわたりにくくなります。このように心臓(心筋)に血液が流れにくくなった状態のことを「虚血性心疾患」といいます。
虚血性心疾患の代表的な病気は「狭心症」と「心筋梗塞」ですが、血管が完全に詰まってしまう心筋梗塞になると、心臓の停止・突然死など、危険な状態を来してしまいます。そのため、心筋梗塞になる一歩手前の「狭心症」の段階で発見し、治療を行うことがとても大切なのです。
現在、日本人の死因の第一位はがん(悪性腫瘍)ですが、がんに次いで多いのが狭心症をはじめとする心疾患です。高齢化社会を迎えた日本においては、高齢者の増加とともに、狭心症や心筋梗塞といった心疾患を患う方の数も増えています。特に、心臓や脳の疾患の中でも血管が原因となる疾患での死亡者数は、がんと変わらない程の割合を占めるようになりました。
さらに最近の傾向として懸念されることは、40歳未満の若年層の患者さんが増加していることです。小児期に患う川崎病の後遺症や家族性高脂血症などが原因で、若くして狭心症になられる方はおられますが、近年の特徴としてはそういった疾患は何もないまま発症する方が増えているのです。これは、私が20~30年診療を行ってきた中における大きな変化です。
若年層で狭心症になられる方には、あまりよくない生活習慣をされている傾向があります。
例えば、
というような事例が挙げられます。
また医療機関にほとんど行かないということも、重要な特徴のひとつです。そのため突然心筋梗塞などを発症し、生死に関わる状態寸前で病院に来られるのです。少子高齢化が叫ばれる現代において、若者が狭心症を起こして命を落としてしまうという状況は非常に懸念されている問題であり、これら若者に対する対策が急がれます。
高齢者の方に関しては、狭心症や心筋梗塞になることで、体力の低下とともに行動範囲が制限され、日常生活における活動力が低下してしまいます。健康寿命(健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間のこと)いう観点からみると、活動力の低下を食い止めることは今後の日本における重要なテーマです。ですから、高齢者の方の狭心症や心筋梗塞を減少させることと予防対策は早急に取り組まなければない課題です。
また、最近注目されているトピックスとして「症状が出ない狭心症」があります。これは主に糖尿病の方に多くみられます。自覚症状がないため、知らない間に病状が進行していることが少なくありません。糖尿病がある方や、動脈硬化のリスクが高い方については、意識して注意する必要があるでしょう
狭心症の典型的な症状は、胸の痛みです。動いたときに感じることもあれば、安静にしている時に胸が苦しくなることもあります。胸部の痛みや圧迫感は胸の中心に起こることが多いのですが、のどやみぞおち、あるいは肩や背中などが痛む場合もあります。
このような何らかの症状が現れて患者さんは病院に来られますが、まず一般的に行う検査は心電図検査です。しかし、心電図検査は安静時には異常がないこともあるため、運動負荷をかけたり、24時間ホルター心電図検査(胸にいくつかの電極を張り付け、そこから得られる心電図を小型の機械に記憶させる検査)を行ったりすることもあります。その他にも、心臓の超音波検査や血液検査、動脈硬化の危険因子の有無などのチェックを行い、狭心症の疑いがあるかどうか判断します。
これらの検査を行った上でさらなる検査が必要ということになれば、冠動脈CT(撮影した画像を、コンピューターを使って立体的に見て、血管の性状を見る)や心筋シンチグラフィ(心筋の血液量を画像で診断する)を行います。ただし、血管のけいれんが原因で起こるタイプの狭心症の場合は、CTや心筋シンチグラフィではわからないため、心臓カテーテル検査(手足の動脈から細い管を心臓の血管の入り口まで送り込み管の先端から造影剤を注入して、血管の細さや詰まり具合を写し出す)を行います。