適正な冠動脈インターベンションの実施に向けたしくみ作りの議論が日本でも始められています。ステントを使用した後は、薬と生活習慣の改善のためのプログラムを正しく行うことが大切です。冠動脈インターベンションのこれからの在り方について、福岡山王病院 病院長兼循環器センター長の横井 宏佳先生にお話を伺いました。
冠動脈インターベンションとは、動脈硬化などで狭くなった冠動脈に足の付け根などからカテーテルという細い管を挿入して、狭くなった冠動脈の血管をバルーン(風船)で広げる治療法です。20年ほど前に金属製の網状の筒であるステントが登場して以降、バルーンで血管を広げるだけでなく、病変部にステントを入れることが一般的になりました。カテーテル治療を行って血管が広がれば、胸痛などの症状は消失します。そして重要なのが心臓リハビリテーション同様、カテーテル治療を行った後の、乱れた生活習慣の改善なのです。つまり、包括的な冠動脈のインターベンション(薬物による内科的な治療と、手術による外科的な治療の間の治療方法)が必要なのです。このような概念を最近我々はPCCI(Percutaneous Comprehensive Coronary Intervention)と呼んでいます。
また一方で、最近注目されているのがAUC(Appropriate Use Criteria)という概念です。これは「必要な検査や治療を標準化し適切に実施する」という基準です。アメリカでは2009年に策定されました。アメリカの場合、それぞれの州ごとに治療方針が一律ではないことがわかり、その差異を無くすことを目的として作られました。私がお話している冠動脈インターベンション治療も治療法が標準化されていない治療の一つです。そこで本当に必要な治療なのかどうかをAUCに照らし合わせて見極めることで、実際に安定した患者さんに対する待機的冠動脈インターベンション治療の実施割合が、AUC導入前の2009年より2013年においては2割ほど減少したのです(Circulation 2015:132,20-26)。ハイボリュームセンター(治療の症例数が多い施設)といわれる施設ほど、減少の傾向が多かったというデータが出ています。
日本においても、冠動脈の障害が大きくない状態にも関わらずステント治療を行い、冠動脈に隙間なくステントが入っているという異常な状態の患者さんもおられます。そのような背景もあり、日本でも適正な冠動脈インターベンションを実施する必要があると強く感じました。
本当に必要な状態の場合にのみステントを使い、それ以外は投薬と生活習慣の改善プログラムを組み合わせた治療を適切に行うことだけで十分なのです。
現在では「日本心血管インターベンション治療学会」が発足し、カテーテル治療の開発・発展を推進しています。私も理事の一人なのですが、医師に対しインターベンションの技術・知識を広く普及させ、心血管疾患を持たれる患者さんを一人でも多く救うため、尽力しています。