風邪に似た症状から始まり、心不全や致死的不整脈などの重篤な症状へと移行する「急性心筋炎」。ダメージを最小限にとどめ健康な生活を取り戻すためには、早期に医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。今回は、心筋炎が疑われるときに行われる検査について、東京医科大学循環器内科学分野 兼任講師の渡邉雅貴先生にお話しいただきました。
ここでは、急性心筋炎の疑いがあるときに重要とされる検査を、順を追ってご紹介します。
この中でも心電図は最も感度が高く、疑いを持った時点でまず行うべき検査です。また、経過を追って複数回にわたり心電図の「変化」を見ることも大切です。なぜなら急性心筋炎が疑われる場合、初回では異常所見が見られず、3日後など少し病気が進んだ時にQRS幅が広がっている(心臓の収縮が遅れている)ことがあるからです。心臓の筋肉がどれだけダメージを受けているかということが客観的にわかりますし、突然死の原因となる期外収縮や完全房室ブロックなどの不整脈が出現することもあります。
また、レントゲンでは心拡大や肺のうっ血を認めることができ、心エコー検査では心拡大のほか左心房の機能低下などをみることができます。この心エコー検査は、小児の急性心筋炎の検査のときに、最も観察しやすく有用な検査になります。
急性心筋炎は、転院搬送が必要になることの多い「医療連携」が肝要になる疾患です。上記3つの検査結果は、客観性を担保でき、情報を各病院で共有できるデータとして残るので、非常に優先順位が高い検査であるといえます。
また、心臓に細い管を挿入する心臓カテーテル検査も、優先順位が高い検査です。心臓カテーテル検査には、上記に挙げた検査とは異なる意味があります。
本来心臓カテーテル検査は、心筋炎ではなく狭心症や心筋梗塞を診断するために「冠動脈」をみる検査です。前述の心電図検査では、心筋炎でも冠動脈の病気でも同じような変化が現れますが、心臓カテーテル検査も同じ時期に行い冠動脈に異常がないことがわかれば、病初期段階で心筋炎を積極的に疑い、早期に治療に入ることができるのです。
心筋がダメージを受けているかどうかは、血液検査でも客観的にみることができます。血液検査では、心筋組織が壊れると血液中に出てくる「心筋トロポニンT」値を測定します。
血液検査を行っていない施設で急性心筋炎が疑われる患者さんに遭遇した場合は、なるべく早い段階で高次機能病院に患者さんを送って検査を行ったあと、心臓のMRI検査を行います。さらに、場合によっては心筋シンチグラフィ(RI)検査も行います。心筋シンチグラフィ検査とは、「テクネチウム‐99m(99mTc)ピロリン酸」などの放射性医薬品を体内へと投与し、その分布を画像化することで心筋の血流やダメージをみる核医学検査です。
最後に、心筋生検の意義と有用性についてお話しします。心筋生検とは、小さなワニ口の鉗子(かんし)で心筋の一部を採取し、炎症細胞の有無などを調べるものです。心筋の一部ですので、その部位に炎症細胞がなかったからといって心筋炎でないというわけではなく、比較的取り扱いが難しい検査だといえます。
しかし、標本をとっておけば、あとから病理医の先生に見せ、そのときの状況を調べることができますので、実施可能な条件がそろっていれば、ぜひ行っていただきたい検査であるといえます。
また、心筋生検で白血球の一種である「好酸球(こうさんきゅう)」や、「巨細胞」の浸潤が見られた場合は、「好酸球性心筋炎」「巨細胞性心筋炎」であることがわかります。好酸球性心筋炎と巨細胞性心筋炎には、可及的速やかに免疫抑制剤であるステロイドを処方すべきであり、心筋生検でこの2つの心筋炎がわかれば、即座に治療法をできますので、心筋生検は有用性の高いものであるといえるのです。