適切な初期治療が重要な「急性心筋炎」。しかし、その初期症状は風邪と酷似しており、発見や対応が遅れやすいことが問題となっています。急性心筋炎の前駆症状(前触れとして現れる症状)と、急性期に現れる典型的な心症状にはどのようなものがあるのか、東京医科大学循環器内科学分野 兼任講師の渡邉雅貴先生にお伺いしました。
急性心筋炎を引き起こす代表的なウイルスには、コクサッキーB群ウイルス、アデノウイルス、バルボウイルスなどがあります。このほか、HIVウイルスやC型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルスなども心筋炎を引き起こすことで知られています。また、ウイルスのだけでなく、細菌やクラミジア、マイコプラズマ、真菌も心筋炎の病原体となります。
急性心筋炎の症状は、無症状から死に至るほどの重い症状まで様々ですが、多くは上述のようにかぜ様症状(風邪に似た症状)が先行して現れます。
これらの症状が現れてから数日の経過で、下記のような心症状が現れることがあります。
このうち、心不全徴候が現れる頻度は、全体の70%を占めます。
心不全徴候とは、動悸、息切れ、呼吸困難(特に、仰向けになったとき)、足のむくみ、咳、全身倦怠感、夜間の頻尿、などのことをいいます。心臓のポンプ作用が低下してしまい、全身の臓器や筋肉に必要な血液が供給されないために、このように全身の症状が現れるのです。かぜ様症状を訴えた後、心症状にまで至らない方もいれば、無症状で経過し、突然心不全やショックなどを起こす方もいます。
記事1『心筋炎とは-健康な人でも突然かかる心臓病』でも述べた通り、心筋炎はどんな方でもかかる可能性がある病気です。上記のようなかぜ様症状のあとに、息切れをはじめとする心症状が現れた場合は、必ず心筋炎の可能性も疑って医療機関を受診してください。
特に、全身倦怠感があり非常にだるく、これまでに自分が体験したことのあるかぜ症候群の症状(鼻水や鼻づまりのみで終わる、など)と違いを感じるときや、胸に症状があるときは、そのことを強調してお伝えください。
お子さんがかかりやすい病気でもあるので、ご家族など周囲の人がこれら心筋炎の症状を知っておくことも重要です。
また、他科の医師の先生方には、このような症状を訴えている患者さんと出会った時には、「疑い」の段階で構いませんので、ぜひ高次機能病院の循環器内科にご紹介して欲しいとお伝えしたいです。特に、ジェネラリストと言われる開業医の先生方は、「動悸」「息切れ」「胸が苦しい」と言ったワードを取りこぼさないように注意していただき、疑わしいと感じた時には心電図検査を行っていただきたいと思います。急性心筋症の診断における心電図の感度は高く、また、心電図変化を記録することは病勢の評価の一助にもなります。
急性心筋炎は生死をも左右することのある怖い病気ではありますが、初期治療を適切に行えば、社会復帰率が非常に高くなる病気です。それゆえ、多くの医療者がタッグを組んで診断と治療にあたることのできる環境こそが重要なのです。
ここまでに、心筋炎の治療では早期の受診と初期の対応が要になると述べてきましたが、これにはもうひとつ重要な理由があります。それは、心筋細胞とは炎症により破壊されると再生しない細胞であり、ダメージを受けすぎてしまうと心機能が元に戻らなくなってしまう危険があるということです。
ただし、現在は心不全治療薬が劇的に進化しており、初期の治療成績が非常に向上しているので、心筋がダメージを受けたからといって心臓の機能が完全に戻らなくなってしまうというわけではありません。炎症部分の周囲に治療を施すことで、生命予後を改善できる可能性も大いにあります。しかし、そのような治療の機会を逸してしまい心筋炎が慢性化すると、そのうちの40%は不顕性化(症状が現れないこと)し、回復して退院した後、いわゆる「遠隔期」に死亡するリスクもあるといわれているのです。
ですから、急性心筋炎の疑いがあるときはなるべく早く受診していただき、慢性心筋炎に陥る前に治療を受けることが大切なのです。