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血管内視鏡を使って急性大動脈解離や大動脈瘤の早期発見を実現する

急性大動脈解離や大動脈瘤の破裂は、解離(かいり)や破裂を起こす前の予測が非常に難しいといわれており、救命も極めて困難な病気です。そのため、発症前診断を含む早期先制診断が必須と考えられます。

本記事では、これらの病気の展望について、血流維持型血管内視鏡の開発者である、大阪暁明館(おおさかぎょうめいかん)病院 特別顧問の児玉和久先生と、大動脈プラークの自然破綻(はたん)に関する研究を行っている大阪暁明館病院 心臓血管病センターの小松誠先生にお話を伺います。

※記事1は『人生100年時代を健やかに–健康寿命を長く生きるために』を、記事2は『大動脈を中からみて病気を発見する−血管内視鏡が新しい医学をもたらす』を、記事3は『大動脈プラークのかけらが老化の引き金となる』をご覧ください。

▲血流維持型血管内視鏡の開発者 児玉和久先生

急性大動脈解離(かいり)や大動脈(りゅう)の破裂は、現在の臨床において、もっとも予測が難しく救命も不可能に近い病気であると知られています。その死亡率は、50%を越えます。

突然の胸や背中の痛みから始まり、検査も間に合わず、なすすべもないことが多いことが、救命率が低い要因です。たとえ院内で発症しても救命は極めて困難です。

診断はCTで行いますが、それは解離(かいり)や破裂を起こしたあとにようやく所見として認知されます。また治療法には、ステントグラフト内挿術や外科手術がありますが、「切迫破裂」という破裂寸前で止まっている状態で手術的治療が間に合ったときに限られています。

大動脈(りゅう)の破裂は事前に予測できればよいのですが、直径が大きくなると破裂の危険が高まるといわれており、直径とその径の拡大速度が手術を行うかどうかの基準となっています。

また、大動脈解離(かいり)は正常サイズでもいきなり発症します。

冠動脈の場合は、「プラーク」という汚れの性質を、血管内視鏡やその他の検査で調べて治療を行います。一方、大動脈は大きさの基準だけで手術を行ってよいのかという疑問はあったものの、大動脈をプラークレベルまで繊細に調べる方法はなかったため、仕方がないと捉えられていました。

また、CTによるULP(ulcer-like projection:潰瘍(かいよう)様突出像)など解離(かいり)や破裂などの危険性を示す指標はありましたが、そもそも日米欧のガイドラインで考え方にばらつきがあるなど、病気の概念がまだ定まっていないのが現実です。

血管内視鏡ではいくつもの種類の大動脈の損傷を同定しています1)。たとえば、大動脈の内部にミリ単位の亀裂が生じ、血管の外側から内側に向かって、血液が流れ込んできている様子が確認されました。通常これは、小さすぎてCTで見つけることができませんでしたし、病理でも見つけることが困難でした。何よりどちらも生体内を動いている画像としての表現ははじめてのことです。こういった所見が大動脈解離(かいり)の発症に関係しているかは丁寧に所見を蓄積していき、破裂の徴候を微細なレベルから見つける、こういった内膜は危ない、など今後の研究の進歩が期待されます。

 

▲大動脈プラークの自然破綻に関する研究を行っている 小松誠先生

ここまでお話ししてきたように、血流維持型血管内視鏡の開発と、コレステロール結晶をはじめとした塞栓(そくせん)物質の精密な解析によって、将来的に病気の概念が変わることが期待されます。また、血管内視鏡を活用していくことができれば、これまで「不可抗力」という言葉で片付けられていた老化や急性大動脈症候群のような病気を未然に防ぐことができるかもしれません。そのためには、循環器内科以外にも、神経内科、腎臓内科、眼科、心臓血管外科、放射線科の臨床医学だけでなく、病理学をはじめとした基礎医学の英知を結集する必要があります。

「人生100年」といわれている時代を、人々が健康な身体で生き抜いていけるよう、医学の発展に向けて今後さらに研究を進めていきたいと思います。

【参考】

1)廣 高史, 小松 誠, 藤井 洋之, 高山 忠輝, 上田 恭敬, 樋口 義治, 阿部 七郎, 木村 茂樹, 角田 恒和, 佐藤 明, 松岡 宏, 川上 秀生, 池田 善彦, 朝倉 正紀, 林 宏光, 由谷 親夫, 齋藤 穎, 平山 篤志, 児玉 和久, (NPO 法人日本血管映像化研究機構大動脈内視鏡診断標準化委員会)血流維持型大動脈内視鏡診断標準化指針(NPO 法人日本血管映像化研究機構血流維持型大動脈内視鏡診断標準化委員会編 2017 年版) 心臓血管内視鏡 4(1):1-11;2018.