腎不全などの慢性疾患とは、腰を据えて長く付き合っていく必要があります。これは時として精神的に辛いものであり、慢性疾患の治療における患者さんのこころのケアは非常に大切です。本記事では、日本赤十字医療センター腎臓内科の石橋由孝医師・上條由佳医師ご監修のもと、同科専任の臨床心理士である藤本志乃先生にお話しいただきました。
「そろそろ透析ですよ」といわれて、「ショックでたまらない、透析なんてしたくない」とおっしゃる方は多くいらっしゃいます。しかし、しばらく時間が経ったあと、同じ方にお話を聞くと「実際に透析をしてみると体が楽になった」、「透析をして良かった」、「病気になっていろんなことに感謝するようになった」とおっしゃることがあります。
このように、人間のこころというものは、日々変化していくものです。特に、慢性疾患の場合には、定期的な通院・服薬、食事管理など疾患に関わる必要な自己管理だけでなく、これまでの生活パターンを変更しなければならないなど、実際に大きな変化があります。それに対して大きくこころが変化するのは自然なことです。しかしどのように変化するのか、変化してつらくなってしまったときにどう対処して良いのかがわからないとなると、やはり不安なものです。
そこで今回は、慢性疾患患者さんのこころの変化とそれに対する対応についてお話ししたいと思います。
腎不全などの慢性疾患に罹患すると、それを受け入れるための一連の心理過程が作用すると考えられています。その心理過程については、「障害受容」という形で、様々な理論が提唱されてきました。我々は多くの慢性疾患患者さんにお会いする中で、その心理過程は、下記の「喪失」「拒絶」「闘争」「折合」「受容」の5段階であらわされると考えています。
5段階あるのですが、これらは「喪失」→「受容」に向かって順番に進んでいくというわけではありません。慢性疾患である腎臓病を持つ透析患者さんの疾患の受け入れに関しては、「円環状の受容プロセス」を経るとも言われています*1。つまり、こころが「喪失」から「闘争」へ変化したとしても、今度は「拒絶」に落ちてしまうこともあるということです。これは、上でも述べたように、慢性疾患の治療が長期にわたることで、疾病が悪化したり、生活面にも大きな変化が生じたりし、わたしたちのこころは、その都度それに適応できるよう変化していくためです。
受け入れの段階の最終的なゴールは、表の一番上にある「受容」の段階になります。これはどのような段階なのかというと、患者さんが疾患を通して、自分の本当にやりたいこと(生きがい)を改めて見直し、気づき、その生きがいに向かって進んでいける段階です。
こころが「喪失」の段階にある人には、やりたいことを改めて考えられるようになるための土台づくりをすることが大切です。こころが「拒絶」〜「闘争」の段階にある人は、疾患のことを考えないようにすることに一生懸命で、やりたいことを見失ってしまっていることが多くあります。そのため、「自分が本当にやりたかったこと(生きがい)は何なのか」ということを探していくことが大切になります。こころが「折合」の段階まできている、けれどもつい習慣でこれまで食べていたものを食べてしまうといったような場合には、その習慣を自分に合った方法でコントロールしていくことが大切です。
各段階の具体的な対応については、
「慢性疾患における喪失段階のこころとその対処」
「慢性疾患における拒絶・闘争段階のこころとその対処」
「慢性疾患における折合段階のこころとその対処」
をご参照ください。
参考文献
*1 堀川直史(2008) 透析を受ける患者の心理とその特徴, 臨床透析 24(10), pp1363-1368