呼吸困難の原因は、循環器の病気、呼吸器の病気、血液の病気、ホルモンの病気など非常に多岐にわたります。また呼吸困難は非常によくみられる症状でありながら、生命に関わるような重要な病気が原因となっていることがあります。呼吸困難の患者さんをどのように診断していくのか、総合診療医である片岡仁美先生に教えてもらいました。
呼吸困難の患者さんが来た場合、どのように診断をするのでしょうか?
呼吸困難に限らず、患者さんが来た場合は一般的に、
「問診」 → 「身体診察」 → 「検査」という順序で、診断を進めていきます。
呼吸困難・息切れを診断するために問診ではどのようなことを確認するのでしょうか?
問診では呼吸困難が生じた時間的な経過や、呼吸困難にともなう症状を確認します。
たとえば時間的な経過で、
- 「突発性(分単位など)」 → 気胸、肺血栓、気道閉塞、心筋梗塞などを疑います。突発性の場合は、緊急の病気であることが多いので注意が必要です。
- 「急性(数時間から1日など)」 → ぜんそく発作、急性心不全、肺炎などを疑います。
- 「慢性(数か月から数年など)」 → 肺結核、間質性肺炎、膠原病、神経筋障害(ギラン・バレー症候群、重症筋無力症など)、慢性心不全、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などを疑います。
また症状に関しては、下記のようなことを確認します。
- 「熱があるかどうか」 → 肺炎や胸膜炎などの炎症や感染の有無を確認します
- 「喘鳴(ヒューヒューという呼吸音)があるかどうか」 → ぜんそくや心不全を検討します。
- 「胸痛があるかどうか」 → 気胸、胸膜炎、心膜炎、冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症)などを鑑別します。
呼吸困難・息切れを診断するために身体診察ではどのようなことを確認するのでしょうか?
視診(患者さんを見て行う診察)
- 「呼吸の補助筋(首や肩の筋肉)を使って呼吸しているかどうか」 → 呼吸困難の重症度をみる
- 「起坐呼吸をしているかどうか(横になったままだと苦しくて息が出来ずに起き上がってしまう)」 → 心不全やぜんそくの特徴的な症状
- 「頸静脈(首の静脈)が怒張しているか(血管が膨らんだ状態)」 → 心不全や気胸に特徴的な症状
- 「呼吸運動の左右差があるか」 → 肋骨骨折など外傷を見分けるため
触診(患者さんを触って行う診察)
- 「全身、特に足にむくみがある」 → 心不全の有無・重症度をみる
打診(患者さんをたたいて行う診察)
- 「濁音(胸をたたいたときに普段より濁った音がする)」 → 胸水貯留など、水がたまった状態
- 「鼓音(胸をたたいたときに普段よりも、高い音がする)」 → 肺気腫、気胸など、空気がたまった状態
聴診(患者さんの胸の音を聞く診察、もっとも重要)
- 「心臓の異常な音(音が多く聞こえたり、雑音があったり)」 → 心不全、心臓弁膜症など心臓の病気
- 「呼吸音が聞こえづらい」 → 胸水、気胸、無気肺など気流が減弱している状態
- 「水泡音(水がぶつぶついうような音)」 → 肺水腫や肺炎など
- 「捻髪音(髪をこすりあわせるような音)」 → 間質性肺炎で特徴的に聞こえる
- 「笛声音(ヒューヒューという音)」 → 喘息で特徴的に聞こえる
呼吸困難・息切れを診断するために検査ではどのようなことを確認するのでしょうか?
病気の重症度をみるために、まずバイタルサイン(生きていく上で、もっとも重要な検査指標。たとえば血圧や脈拍など)を確認します。
呼吸困難で特に重要なバイタルサインは、呼吸数とSpO2(動脈血酸素飽和度、体の動脈中でどれだけ酸素があるかを示す指標)です。呼吸数が大きくなっていたり、SpO2が大幅に下がっていたりする場合は注意が必要です。
多くの場合は、問診と身体所見でおおよその病気候補は絞られます。最終的な確定診断を行うために、下記のような検査が行われます。
レントゲンだけでは十分に分からない場合には、胸部CT検査などが行われることもあります。
記事1:「呼吸困難(息切れ・息苦しさ)」とはどのような状態? 呼吸が苦しくなった時、何科を受診すればよい?
記事2:「呼吸困難(息切れ・息苦しさ)」の原因は何か?
記事3:すぐに病院に行かなければならない、緊急性の高い呼吸困難・息切れとはどのようなものか?
記事4:呼吸困難・息切れはどのように診断するのでしょうか?