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糖尿病性腎症の早期発見・早期介入

現在慢性透析治療を受けている人は全国で30~35万人といわれています。その原因疾患の第1位が糖尿病性腎症です。その数は年々増加傾向にあり、早期発見・早期治療の重要性が叫ばれています。毎月約1200人ほどの保存期腎不全患者さんが来院するという飯塚病院の腎臓内科部長・武田一人先生に、早期発見・早期介入のための取り組みについてお話を伺いました。

【腎臓内科医の役割は透析へと移行させないこと】

腎臓は、血液の中にたまった老廃物や毒素を尿として体外に排出したり、水分や電解質のバランスを調整したりする重要な臓器です。腎臓が機能しなくなると、体内のタンパク質が尿として漏れ出てしまいます。これがタンパク尿で、タンパク尿が増えるとむくみや血圧上昇がみられるようになります。また、ごく初期の段階には微量のアルブミンも出現します。

腎臓の機能が失われて末期の腎不全になると体内の恒常性が失われ、血液中の不要物を人工膜ないし生体膜によって人工的に浄化する治療が必要になります。これが血液透析(HD)と腹膜透析(PD)で、成人患者さんの約9割は血液透析を行っています。 

 

《腎臓のはたらき》 腎臓は主に以下のような働きをします。

・老廃物を排泄する(透析で補える)

・電解質バランスの調節をする(透析で補える)

・水分の調節をする(透析で補える)

・血圧を調節する(透析では補えない)

・ビタミンDを活性化する(透析では補えない)

・造血刺激ホルモンを分泌する(透析では補えない)

※透析で補えない部分については薬剤が使われます。

現在、透析を受けている患者さんの数は全国で約30万人以上です。特に九州は腎不全の発症頻度や増加率が全国的にも高い地域で、新たに透析へと移行する患者さんの増加を抑制することが求められています。糸球体腎炎などの原発性腎疾患や高血圧、リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)といった膠原病などによる二次性腎疾患において、治療が進歩して人工透析に移行することは稀有な状況となりました。大半の疾患が透析の導入を回避できるようになったのですが、現時点では糖尿病だけがその閾には達していません。

腎臓内科医の主な役割は、糖尿病性腎症をいかに発生させないか、糖尿病の患者をいかに透析に移行させないようにするかということだと感じています。飯塚病院では透析導入を少しでも延長しできれば回避させるために、保存期慢性腎不全に対する集学的治療(様々な治療方法を融合させた治療)に力を入れています。

集学的治療では、ごく初期に現れる微量アルブミン尿の時期から血清クレアチニン値の測定を行うほか、内分泌・糖尿病内科と協力体制をとりながら、病気を早い段階で発見して早期治療につなげられるように取り組んでいます。早期の腎症に積極的な治療を行うことで、60~80%の患者さんが寛解状態(完治してはいないが症状があらわれず、日常生活に支障がないレベルまで回復した状態)に達しています。また、インクレチン(DPP4阻害薬、GLP-1)、SGLT-2阻害薬という新たな治療薬が臨床の場に使用されるようになりました。

糖尿病からの腎不全症例が少しでも減少することを願ってやみません。一方で、医師をはじめ看護師や薬剤師、管理栄養士やソーシャルワーカーなどのコメディカルと連携したチーム医療で、患者さんが自己管理できるよう支援体制を整えています。そのなかでも、自己コントロールが重要となる栄養管理においては、減塩やカリウム制限、低タンパク食などの食事指導を月曜から金曜まで行っています。患者さんは、月に1回の腎外来で担当の栄養士から指導を受けることができます。

食事管理に関しては「1日の塩分量は6グラム」などといっていますが、塩分を6グラムに制限するというのは実は非常に難しいことです。実際には、まず個々人にとって達成可能なレベルからの指導が急務であり、徐々に目標を下げてこの目標に近づける事が重要と考えています。

我々の外来には1か月に約1200例の保存期腎不全患者さんが通院されていますが、調査可能な300人の塩分の平均摂取量を調べてみると、約6.5~7.0グラムという結果であり、6グラム未満は50~80名未満でした。九州はもともと味付けが濃い地域なのですが、減塩できると確かに血圧は下がります。そうなると内服薬や注射などの薬剤も当然減らすことが可能になります。

飯塚病院では、患者さんに在宅で自己血圧手帳をつけてもらうようにしています。血圧が下がっている患者さんほど熱心につけられているようです。血圧が下がるのが嬉しいからでしょう。具体的には約98~99%の患者さんが血圧手帳をつけられています。病気が深刻であればあるほど、血圧は低いほうがいいのは確かです。