前の記事「血友病の原因と検査方法」では、血友病の原因と検査についてご説明しました。今回は、血友病になると具体的にどのような症状がでるのか。また合併症としてどのようなリスクがあるのかについて、血友病の専門医でおられる奈良県立医科大学小児科教授の嶋緑倫先生に引き続きお話を伺いました。
血友病は「出血」が主な症状です。特に幼小児期には以下のような出血がある場合は血友病の可能性があります。
1歳くらいまでは青アザ、打ち身で気づくことが多いですが、関節内の出血症状はつかまり立ちや伝い歩きをはじめる1歳ごろから見られるようになります。
また、出血によって周囲組織を圧迫することにより、神経の感覚が麻痺するといった症状を呈することもあります。関節出血の初期の段階では「ムズムズする感覚」や「関節が堅くなったような感覚」がする場合もあります。自然治癒することはありませんが、現在は適切な治療によって出血リスクをかなり抑えられるようになってきています。
出血症状の部位別の頻度では、関節内での出血が圧倒的に多くなっています。
関節が70〜80%、筋肉などの軟部組織が10〜20%、脳や脊髄など中枢神経系出血が5%以下となっています。また、関節内出血の中での部位別頻度では、膝関節45%、肘関節30%、足関節15% 、肩関節3% 、手関節3%、股関節2% と膝や肘の関節に多くなっています。
血友病自体の症状ではありませんが、血友病に合併しやすい病気もいくつかあります。例えば、骨や筋肉系の合併症として、主に以下のような症状・疾患が挙げられます。
これらを「慢性血友病性関節症」といいます。以前はこのような症状を併発して松葉杖や車椅子を使わなければならない人もいましたが、現在では治療の進歩により確実に減ってきているといえます。
また、血液系の合併症として、第Ⅷ因子 / 第Ⅸ因子に対するインヒビター(抗体)が生じてしまい、治療を困難にしてしまうこともあります。(インヒビターについては記事4「血友病の治療とは」にて詳しく説明します。)
インターネット上の記事などで「血友病患者はエイズになる」などと書いてあるのを目にしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。これは全くの誤解なので、ぜひ強く訂正したいところです。一昔前は、血友病の治療で用いた血液製剤から、ヒト免疫不全ウイルス(HIV) 、B型肝炎ウイルス(HBV) 、C型肝炎ウイルス(HCV) 、A型肝炎ウイルス(HAV) 、ヒトパルボウイルスB19などのウイルスに感染したという報告がありました。
ただ、現在日本においては定期投与する凝固因子製剤の85%は遺伝子組み換え製剤のため、ここからウイルス感染をすることはまずありえません。また残りの15%は献血から取り出された血漿ですが、全ての献血は当然ウイルスのスクリーニングを行っています。さらに、血液の中の凝固因子だけを取り出すための純化という工程を何重も経ているため、こちらからも感染リスクはほぼゼロといっていいでしょう。「血友病だとエイズになる!」という偏見をなくすには、血友病患者でない方々にもこのことを知ってもらうことが重要です。