妊娠糖尿病とは、妊娠前に糖尿病の診断を受けていない女性で、妊娠中に血糖値が高くなり、妊娠して初めて血糖値が高い状態が発見された場合に診断される病気です。妊娠前から糖尿病の診断を受けている「糖尿病合併妊娠」とは異なるため、区別が必要です。また、血糖管理の基準が本人の健康と共に胎児の状態にも配慮する必要があるため、糖尿病よりも厳しい基準が設定されています。
2010年に診断基準が厳しくなったこともあり、妊娠糖尿病の頻度が上がりました。以前は3%程度といわれていましたが、今は12%程度といわれています。
通常食べものは消化・吸収され、ブドウ糖となり血液中に入ります。血液中のブドウ糖(血糖)はこのままではエネルギーになりませんが、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンにより全身の細胞に取り込まれ、エネルギーに変えられます。
妊娠すると胎盤からインスリンのはたらきを抑えるようなホルモンが分泌されるため、インスリンが効きにくい状態(インスリン抵抗性)が強まり、血糖値が上昇しやすくなります。
通常の妊婦さんの場合、膵臓からインスリンを多く分泌して血糖値を上げないように調節できますが、元々インスリン分泌が少ない方や、インスリン抵抗性が強い妊婦さんの場合は血糖が上昇してしまいます。
典型的な自覚症状はありません。さらに、妊娠中は体にさまざまな変化が起こるため、尿の回数が増えるなどの症状が出たとしても、気付きにくくなっています。そのため、尿検査や血液検査をすることにより、早期発見が大切になります。
妊娠糖尿病で怖いのは合併症です。妊娠中に血糖値が高い状態でいると、お母さんの血液中のブドウ糖は胎盤を通ってお腹の赤ちゃんに運ばれます。赤ちゃんは自分でインスリンを分泌しますが、インスリンは成長ホルモンでもあるため、多すぎると赤ちゃんが成長しすぎて巨大児になったり、さまざまな合併症の原因になります。
しかし、妊娠糖尿病は糖尿病合併妊娠とは異なり、比較的血糖コントロールを行いやすいため、適切な血糖コントロールを行えば、上記のような合併症を防ぐことができます。
なお、多くの妊娠糖尿病は器官形成期とよばれる先天奇形が発生しやすい時期以降に発症するため糖尿病合併妊婦と異なり先天奇形を生じることはまれです。
妊娠糖尿病になりやすいリスクファクター、危険因子として以下のようなことが知られています。
妊娠糖尿病は妊娠中の血糖管理が不十分だと、胎児にも自分にもいろいろな合併症を起こしてしまう可能性があります。一方で、きちんと診断して治療を行えば、決して怖い病気ではありません。
できるだけ早期に確実に見つけるために、妊娠初期(初診時または10週前後)と中期(妊娠24~28週)にスクリーニングの血糖検査を行い、陽性であれば75gブドウ糖負荷試験(OGTT)を実施します。
75gブドウ糖負荷試験とは、朝食を抜いた空腹の状態でブドウ糖75gを水に溶かしたもの、またはでんぷん分解産物の相当量を溶かした水を飲み、採血をして血糖を測定する試験です。
の3点のうち、いずれか1点を満たすと妊娠糖尿病と診断されます。
妊娠糖尿病の治療法は主に食事療法で行われます。妊娠中の食事療法の特徴は、妊娠週数で変わる付加量と分割食です。妊娠中は非妊時よりも多くのエネルギーが必要になり、妊娠週数によって推奨エネルギー量が区別されています。また、妊娠中は血糖が急に上がりやすくなっているため、1日5~6食にわけてコントロールをするようにします。
食事療法では血糖がコントロールできない場合、インスリン注射を行います。通常の糖尿病に用いられる飲み薬は日本では使用してはいけないことになっているため、妊娠時は用いられません。インスリン製剤のうち、NPHヒトインスリン、レギュラー(速効型)ヒトインスリン、インスリン アスパルト、インスリン リスプロ、インスリン デテミルは、日本でも妊婦さんに使用されています。
出産をすると胎盤もなくなるため、インスリンのはたらきを抑えるホルモンが突然なくなり、血糖値が下がり、改善することが多いと知られています。しかし長期的にみると、妊娠中に糖尿病になった女性は、半数が20~30年後に糖尿病に移行したという報告もあるため、きちんとした管理が必要です。出産後も定期的に血糖を測定し、高血糖の早期発見、早期治療を心がけたほうがよいでしょう。