肺がんは、気管支や肺の中にある肺胞(呼吸で取り入れた酸素と血液中の二酸化炭素を交換する場所)の細胞ががん化する病気です。がんにおける患者数が4番目に多く、死亡数もがんの中で第1位(男性1位、女性2位)となっています。
また、肺がんは診断から5年後の生存率が平均で40%程度であり、ほかのがんと比べると生存率が低い傾向にあります。特に、初期(ステージI期)では5年生存率が80%程度であるのに対し、末期(ステージIV期)では5%程度となっているため、早期発見、早期治療が非常に重要といえます。
ここでは肺がんの初期症状を中心に、原因や検診などについても詳しく解説します。
初期の肺がんにはこれといった症状がなく、まったく症状がないまま進行することもあります。そのため、検診などで偶然発見されることもしばしばあります。
しかし、進行や転移に伴って症状が現れることもあります。主な症状としては咳や痰、痰に血が混じる、気道閉塞による呼吸困難、肺炎に伴う発熱、胸の痛みなどが挙げられますが、肺がん以外の呼吸器の病気でも同じような症状が現れることがあるため、このような症状があるからといってすぐに肺がんと断定することはできません。ただし、複数の症状が現れる、症状が長引くといった場合には、呼吸器内科などの受診を検討するとよいでしょう。
治療方法は病期(ステージ:I-IV期に分類)や組織型(がん細胞の増殖形態に基づく顕微鏡学的・病理学的な分類)によります。比較的初期(主にステージI・II期)の場合は手術がもっとも有効とされています。
手術を行う場合、以前は開胸手術が一般的でしたが、近年では胸腔鏡下手術が広く行われるようになっています。胸腔鏡下手術の利点として、傷が小さく済む、開胸手術より早く退院できるなど患者の負担を軽減できることが挙げられます。なお、手術の前には1か月以上の禁煙が必要となります。
近年、CT検査など画像診断の進歩によってごく早期の肺がんも見つけられるようになり、そのような肺がんには肺の切除範囲を縮小し、肺機能を温存した手術も可能になっています。一方、進行している場合には、進行度に応じて薬物療法や放射線治療を組み合わせた治療が行われることもあります。遠隔転移が認められる場合は薬物療法が治療の中心となります。
肺がんの原因として喫煙、大気汚染、アスベスト、肺の病気などが挙げられます。詳細は以下のとおりです。
特に喫煙との関連は大きく、喫煙者の肺がんのリスクは非喫煙者と比べて男性で4.4倍、女性で2.8倍高くなるというデータがあります。さらに、喫煙を始めた時期が早く喫煙量が多いほどリスクも高くなり、受動喫煙でも2~3割程度リスクが高くなるといわれています。
仕事の作業中などにアスベストを吸い込んだり、PM2.5などによる大気汚染にさらされたりすることも肺がんのリスクを高めるとされています。そのほか、COPDや間質性肺炎、結核など、肺がんを合併しやすい病気も存在します。
肺がんは初期症状が現れることがほとんどなく、症状が現れたときには進行または転移していることが多いため、定期的な検診を心がける必要があります。検診で異常があった場合は精密検査を行います。
日本におけるがん検診は、主に行政が行う対策型検診と人間ドックなどの任意型検診があります。対策型検診は全体の死亡率を下げる目的で行われ、対象者であれば無料または少額で受けることができます。
また、厚生労働省が推奨している対策型のがん検診は現在5つあり、その中に肺がん検診も含まれています。肺がん検診の対象年齢は40歳以上で、年に1回の検診が推奨されており、問診や胸部X線検査(レントゲン)のほか、喀痰細胞診(痰に含まれるがん細胞の有無を調べる検査)が行われることもあります。
検診で結果に異常があった場合も、医療機関で精密検査を受ける必要があります。また、すでに症状がある場合はまず医療機関を受診し、必要に応じて検査を受けることになります。
精密検査には、胸部CT検査、MRI検査、がんが疑われる部位の細胞や組織を採取して調べる病理検査などさまざまな種類があり、進行度合いやがんの部位によって選択されます。骨転移が疑われる場合には、放射性物質を注射して骨への転移を調べる骨シンチグラフィが行われることもあります。
PET検査も最近では広く用いられています。PET検査は、がん細胞が正常細胞よりブドウ糖を多く取り込む性質を用い、ブドウ糖に近い成分の検査薬(FDG)を体内に注射してFDGが多く集まるところを画像化します。一度の検査でほぼ全身を調べることができます。
肺がんは初期症状が現れにくく、症状が現れたときにはすでに進行または転移していることがあるため、検診による早期発見が非常に重要となります。
また、肺がんの大きな原因となるたばこを避けることも大切です。禁煙は肺がんのリスクを下げるほか、すでに肺がんを発症している場合でも、痰の量が減ったり治療後の肺炎リスクを下げたりできるため、早めに禁煙に取り組むとよいでしょう。