飯塚病院では、呼吸器病センターとして、呼吸器腫瘍外科や呼吸器腫瘍内科などの診療科が垣根を越え連携をとりながら呼吸器疾患の集学的治療に取り組んでいます。高齢化のすすむ筑豊地区で集学的治療に努めてこられた、呼吸器外科部長であり呼吸器病センター長の大﨑敏弘先生に、飯塚病院における集学的治療についてお話を伺いました。
飯塚病院では、呼吸器腫瘍外科、呼吸器内科、呼吸器腫瘍内科との連携を図りながら、それぞれの科の垣根を越えて呼吸器病センターとしてチームで治療にあたっています。がん治療には手術療法や薬物療法、放射線療法などがあり、治療効果を向上させるため、これらの治療を効果的に組み合わせることがあります。これを集学的治療と呼んでいます。
集学的治療では、医師のほかにも看護師や薬剤師、理学療法士や臨床検査技師などのコメディカルが集まり、それぞれの医療分野での専門性を生かしながらカンファレンスを行い、患者さんにとってよりよい医療をすすめていきます。
通常、病院の診療科はそれぞれ独立しているため、ひとつの病気でいくつかの診療科にまたがる場合、検査の重複などで効率が悪くなったり、治療にも時間がかかったりすることがあります。センター化してひとつに集約することで、それぞれの診療科の連携がスムーズになり、無駄のないシームレスな医療が可能となるのです。
飯塚病院の呼吸器病センターでは15~16人ほどの医療スタッフがチームとして、週に3回の合同カンファレンスを行い、患者さんの治療方針などを話し合っています。
肺がんの患者さんに治療を行う際、同じように行っても効く人もいれば効かない人もおり、効果や副作用はひとりひとり違います。理想的な治療は、効果が高くて副作用が少ない治療です。
これまでの肺がん治療は、患者さんすべてに同じ治療をしていたため、効果の出る人もいれば出ない人もいるという状況でした。そこで、それぞれの患者さんに合わせて最適な治療を行う「個別化治療」が、肺がん治療において現在注目を集めています。「オーダーメード治療」あるいは「テーラーメード治療」などとも呼ばれています。たとえば、肺がんの薬物療法(抗がん剤治療や分子標的治療)の方法は、病気の進行度(病期)、組織型(肺がんの種類)、遺伝子変異のタイプ、全身状態、年齢の5つを指標として治療方法が異なります。
肺がんの種類(組織型)と大まかな特徴は上記表のようになり、他にも様々な特徴を持っています。また組織型によって治療方法が異なります。
肺がんの分類は下記のとおり、大きく「非小細胞肺がん」と「小細胞肺がん」にわけられ、非小細胞肺がんはさらに「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」などに分類されます。このように肺がんといっても、さまざまな種類があり薬の効き方も異なるのです。
【非小細胞肺がん】
・腺がん
肺野部(肺の奥のほう)にできる
肺がんの約60%を占める(最も多い)
女性の肺がんに多い
分子標的治療の対象になる
・扁平上皮がん
肺門部(肺の入口)にできる
男性・喫煙者に多い
・他にも大細胞がんなどいくつかの組織型があります
【小細胞肺がん】
・小細胞がん
肺門部(肺の入口)にできる
進行が早く悪性度が高い
放射線や理学療法が効きやすい
最近は、たばこを吸わない女性に多い「腺がん」が増えています。このタイプの肺がんにはEGFR遺伝子変異のある方が多く、このタイプに有効とされる「分子標的薬」が使われます。分子標的薬とは、がんがもつ特有の分子を狙い撃ちし、がんの活動を抑える薬です。ターゲットを絞った治療が可能となるため、従来の抗がん剤治療と比べて髙い治療効果が得られるようになりました。これまで苦しい治療をして余命が1年ないような状態の方が、3年近く延命できるようになってきています。
現在は「EGFR」「ALK」の2つの遺伝子に変異が無い患者さんには治療の適応がありませんが、研究がすすめば、また新しい遺伝子が発見され、分子標的治療の適応が広がることも期待されています。
こういったターゲットを絞った個別化治療(薬物治療)は、切除不能な進行肺がんの患者さんや手術後に再発した患者さんを中心に行われていますが、今後はさらに個別化治療の対象となる患者さんも増えてくると考えています。
《肺がんの薬物治療に関する治療方針の指標となる5つの因子》
①病気の進行度(1期から4期に分類)
②組織型(腺がん・扁平上皮がんなど)
③遺伝子変異のタイプ(EGFR・ALKなど)
④全身状態
⑤年齢
これら肺がんの薬物治療に関する詳しい内容については、日本肺癌学会が出している「肺がん診療ガイドライン(2015年版)に詳しく書かれています。インターネット上でも見ることができますので、「肺がん」「ガイドライン」で検索をされてみるといいでしょう。
※日本肺癌学会のサイトも参照にしてみてください。