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感染性心内膜炎とは−症状や治療法は?

原因不明の発熱が数週間から数か月続いているとき、さまざまな病気の可能性が疑われますが、感染性心内膜炎もそのうちのひとつです。感染性心内膜炎は、心臓の弁や心膜が細菌に感染し疣贅(ゆうぜい)(細菌の塊)が形成されることで、弁の機能不全、敗血症、塞栓症など、全身にさまざまな症状が現れる病気です。今回は横須賀市立うわまち病院 心臓血管外科部長である安達晃一先生に感染性心内膜炎についてお話を伺いました。

心臓の疣贅

感染性心内膜炎とは、心臓の弁や心内膜が細菌に感染することで、疣贅(ゆうぜい)(細菌の塊)が形成され、弁が破壊される病気です。また、細菌が血流に乗って全身に散らばると敗血症(はいけつしょう)を引き起こします。敗血症は、肺炎や腎盂腎炎、胆嚢炎、胆管炎などのさまざまな感染症が原因となりますが、感染性心内膜炎による敗血症は特に重症化しやすい傾向があります。これは、感染性心内膜炎の場合、血液の流れがある場所で細菌が繁殖するので、瞬く間に細菌が全身の臓器へと散らばってしまうためです。またこのとき、細菌が塊になって流れると、血管が詰まる塞栓症を引き起こすこともあります。

このように、感染性心内膜炎は心臓だけでなく、あらゆる体の部位に様々な症状をもたらす全身疾患といえます。

敗血症…細菌などの感染によって、全身のさまざまな臓器に障害が起こること

感染性心内膜炎は誰でも発症する可能性のある病気で、患者さんの年齢も若年者から高齢者までさまざまです。なかでも、以下のような方は特に発症しやすい傾向があります。

  • 先天性心疾患や心臓弁膜症がある方
  • 人工透析をしている方
  • 静注薬物常習者

など

感染性心内膜炎は、心室中隔欠損症や大動脈二尖弁などの心臓の病気を生まれつき持っている方や、心臓弁膜症を持っている方に多くみられます。

これらの病気がある方は、心臓のなかに「ジェット」という、血液の流れが異常に速い部分があります。ジェットがあると、強い血流が心臓内部の局所に当たり続けるため、その部分の組織が傷害を受けてだんだん(もろ)くなっていき、そこに細菌感染が起こりやすいといわれています。

心室中隔欠損症…右室と左室を隔てる壁に穴が開いている病気

大動脈二尖弁…本来3枚ある大動脈弁の弁尖が2枚しかない病気

心臓弁膜症…心臓の弁がうまく閉じなくなったり(閉鎖不全症)、開かなくなったり(狭窄症)する病気

慢性腎臓病で人工透析をしている方も感染性心内膜炎を発症しやすいといえます。人工透析では、血液を人工的に浄化するために、血液を体の外に出したり戻したりを繰り返しています。その過程において、血液が汚染されるリスクが高く、感染性心内膜炎を発症することがあります。

人工透析…血液をろ過する腎臓の役割が果たせない慢性腎臓病などの方に対し、人工的に血液の浄化を行う治療

日本ではほとんどみられませんが、海外では麻薬の静脈注射によって薬物常習者が感染性心内膜炎を発症するケースが多くあります。これは、注射器を常に不潔な環境下で使用しているために、静脈から細菌が侵入することが原因です。このとき、静脈を通じて細菌が心臓へと流れていくため、右心にある三尖弁に細菌が繁殖することが特徴です(そのほかの感染性心内膜炎は、僧帽弁や大動脈弁に発症することが多い)。

感染性心内膜炎は発症原因がわからないこともありますが、明らかな原因のひとつとして歯科治療や歯周病などがあります。

口腔内の傷口から細菌が血中に入ることで、感染性心内膜炎を発症することがあります。そのほか、歯周病などで口のなかに繁殖した細菌が原因になることもあります。また、口のなかの細菌の多くはレンサ球菌であるため、血液培養でこの菌が同定されると、感染性心内膜炎の発症機序として抜歯や歯周病がきっかけであると疑います。

歯科治療による感染性心内膜炎を防ぐために、抜歯のように傷ができる治療を行ったあとは抗菌薬の投与を行います。また、日頃から口のなかを清潔な状態にして歯周病予防に努めることもとても大切です。

感染性心内膜炎の典型的な症状は持続する発熱です。風邪などによる発熱は数日〜1週間程度で解熱していくことが多いですが、感染性心内膜炎の多くは、数週間〜数か月間にわたり発熱が持続します。そのため、原因がはっきりしない長引く発熱がある場合には、感染性心内膜炎ではないかどうかを調べる必要があります。

感染性心内膜炎では、心臓の弁についた細菌によって弁が破壊されてしまいます。弁は、心臓のなかの血液の逆流を防ぎ、血液をスムーズに流すための役割を担っています。そのため、弁が壊れて本来の機能を失うと、心臓が血液を全身にうまく送り出せなくなる「心不全」となります。この場合、心不全の症状として息苦しさなどの症状が現れます。

心臓の弁に付着した細菌の塊(疣贅)(ゆうぜい)が血液に乗って全身に流れると、疣贅が血管に詰まる塞栓症を発症することがあります。たとえば、脳血管に詰まると脳梗塞を発症し、腎動脈に詰まると腎梗塞を発症します。

また、塞栓症は手足や目などの末梢血管に多く起こり、見た目にも特徴的な症状が現れます。症状として、手足の末梢血管で起こると手足の指先に痛みを伴う皮疹が現れたり、目の網膜の血管で起こると網膜に赤い炎症がみられたりします。

感染性心内膜炎では主に、血液検査と心臓超音波検査を行います。

感染性心内膜炎が疑われる場合には、必ず血液検査を行います。血液検査では、白血球数や炎症反応(CRP)の上昇を確認します。また、血液中の細菌を調べる細菌培養同定検査も行います。

また、感染源が心臓であるかどうかを調べるために、心臓超音波検査を行います。感染性心内膜炎を発症している場合、心臓超音波検査を行うと疣贅(ゆうぜい)の付着が確認できます。

資料:安達晃一先生よりご提供

感染性心内膜炎の治療法は、主に抗菌薬による内科的治療と手術治療の大きく2つです。

感染性心内膜炎の治療のベースは、抗菌薬による内科的治療です。治療には入院を伴い、原因となっている細菌の種類に合わせた抗菌薬を通常4〜6週間ほど投与します。抗菌薬による治療で細菌が消滅すればそれ以上の治療は必要ありませんが、効果が得られない場合には次に述べる方法で手術治療を行います。

手術適応

手術治療が必要な場合は、主に以下の3つです。

  • 抗菌薬による治療効果が得られない場合
  • 弁の機能不全が進行して心不全を起こしている場合
  • 可動性のある疣贅を認め、今にも塞栓症を発症しそうな場合

手術方法

手術は、悪くなってしまった弁を人工の弁に入れ替える「弁置換術」、もしくは自分の弁が温存できる状態であれば弁の形を整える「弁形成術」を行います。このとき、弁膜に付着している疣贅の切除も行います。

また、患者さんのなかには弁輪部(弁の外周部分)に感染及び膿瘍(のうよう)を形成していることがあります。その場合には、弁輪部の膿瘍を切除したうえで、弁輪部の形を整える難易度の高い手術が必要になります。

感染性心内膜炎はなかなか診断がつかないことが特徴です。長引く発熱があるとき、心臓の病気を専門とする医師(循環器内科医や心臓血管外科医)であれば真っ先に感染性心内膜炎を疑いますが、通常は診断が難しい病気といえます。

また、感染性心内膜炎はよく肺炎と間違われることがあります。なかには、半年以上肺炎の治療をするも治療効果がなく、心臓を調べたら実は感染性心内膜炎だった、というケースもあります。

感染性心内膜炎はなるべく早期に治療を行わないと、弁の破壊が進行して、全身のあらゆる臓器に障害を及ぼします。そのため、原因不明の発熱が数か月以上続いているようなときには、全身の検査ができる病院を受診していただきたいと思います。