女性のがんの中で乳がんは罹患数がもっとも多く、死亡数も年々増えています。このように患者数からも乳がんは女性の病気といったイメージがありますが、男性でもまれに乳がんを発症することがあります。しかし、男性乳がんは病気としての認知度が低く、男性には乳がん検診が行われていないため、発見や診断が遅くなることが多いのが現状です。そのため、男性も乳がんについての知識を持っておくことが大切です。
男性が乳がんを発症する割合は、女性の乳がんの1%程度とされています。また、2016年の男性乳がんの罹患率は人口10万人あたり1.1人であり、単純計算で日本における1年間の罹患数は700人未満となります。
また、男性乳がんは女性に比べて5~10歳高い年齢層で発症するとされています。女性の乳がんは40歳代後半から50歳代前半に発症することが多いですが、男性乳がんでは65歳以降で発症する方が約7割を占めます。
男性の乳がんも女性の乳がんと同じく乳房の組織の中にがん細胞が発生する病気です。しかし、女性の乳がんとは原因や治療法などが異なる部分もあります。
男性乳がんの種類でもっとも多いものが、浸潤性乳管がんです。乳房の中にある乳管の内側を覆う細胞の層から発生し、その層を越えて広がっていきます。そのほか、非浸潤性乳管がん(乳管内がん)や炎症性乳がん、乳頭のパジェット病などの種類があります。
乳がんの原因の多くは、女性ホルモンのエストロゲンが関連するとされています。男性乳がんの場合はそのほかに、以下のような原因が考えられています。
乳がんの診断方法は、男性も女性もほぼ同じです。まずは問診と医師による触診で、患者の状態やしこりの有無などを確認します。その後、マンモグラフィ(乳腺X線撮影)や超音波検査でしこりの形状や大きさを調べます。
がんの可能性がある場合は、確定診断のために生検(細胞や組織を採取する検査)を行います。更にMRIという画像検査にて精密検査を行い、しこりの広がりを確認し、両方の乳房内にほかの病変がないかを確認します。また、BRCAという遺伝子の変異が原因となることもあるため、少量の血液を採取して遺伝子検査が実施されることもあります。
男性乳がんの治療はステージや乳がんの性質に応じて、手術や薬物療法(ホルモン療法、抗がん剤、分子標的薬)、放射線治療などから選択されます。
男性の場合、進行がんで発見されることが多く、乳房の大きさが小さいため、現状は乳腺を全て摘出する手術(乳房全摘術)を行うことが一般的です。ステージI期の早期がんの場合には、乳房温存術(乳房を残したままがんを摘出する手術)が選択されます。手術前の画像検査で、腋のリンパ節に転移を疑う所見がなければ、最初に転移しやすいリンパ節であるセンチネルリンパ節のみを摘出し、手術中に転移がないか調べます。転移がなければ腋のリンパ節は温存します。
一方、リンパ節に転移を認める場合には、腋のリンパ節を摘出する手術(郭清術)が必要になります。リンパ節を郭清した場合には、術後のリハビリテーションが必要となり腕のリンパ浮腫が起こる可能性が3割程度あります。
また、男性乳がんはホルモン療法の効果が高いことが多く、5年から10年の内服治療を行います。リンパ節転移を認める場合や腫瘍が大きい場合には、抗がん剤や放射線療法によって術後の生存率の改善が明らかとなっています。また、進行がんの場合には手術前に抗がん剤などの薬物療法を一定期間行い、腫瘍を小さくさせてから手術を行うのが一般的です。
男性の乳がんそのものは、女性の乳がんと変わらない病気です。しかし、以下のことから、女性の乳がんに比べてリスクもあります。
乳がん患者の99%は女性であるため、男性の乳がんは病気としての認知度が低い故に、乳がんと疑うことなく放置してしまったり、診断が遅れたりする場合があります。
しかし、男性の乳がんも女性の乳がんと同じく乳房周辺にしこりができるので、男性も女性と同様に乳房に変化がないか定期的にチェックすることが大切です。
診断時の進行度合い(ステージ)が同じであれば、男性の乳がんと女性の乳がんの生存率はほぼ同じです。しかし、繰り返しとなりますが男性の乳がんは認知度が低く、男性に対する乳がん検診がないことから、発見や診断が遅れ、がんと診断されたときにはすでに進行しているのが現状です。
しかし、男性乳がんはホルモン療法の効果が高い大人しいタイプの乳がんも多く、手術に加え抗がん剤治療や放射線療法などの治療を適切に組み合わせることによって、完治できる可能性が十分にあります。
一般に乳がんは女性の病気といったイメージもありますが、男性でも発症することがあることを知っておきましょう。患者数からみると過度に心配する必要はないといえますが、発症した場合には早期発見・治療できるよう男性も日頃から意識してセルフチェックをすることが大切です。乳房周辺にしこりのようなものがあったり、違和感があったりする場合は、乳腺外科の受診を検討してください。