肛門周囲膿瘍は、肛門腺などに細菌が入り込むことによって感染が生じ、肛門周辺に限局性に膿がたまった状態です。ときに椅子に座れないほどの強い痛みがあり、発熱を生じることもあります。これを放置すると状態が悪化してより治療が複雑になる可能性があるので、早めに適切な治療を受けることが望まれます。
本記事では、肛門周囲膿瘍と診断された場合に選択される治療法から治療後の注意点までを詳しく解説します。
肛門周囲膿瘍の一般的な治療方法は手術治療です。軽度の場合には抗菌薬の内服により治癒することもありますが、進行している場合には手術によって膿汁を排出する必要があります。
手術では膿がたまった部分を切開し、膿汁を排出します。膿瘍(たまった膿)が皮膚に近い場合には局所麻酔下で手術が行われて帰宅することもできますが、膿瘍が大きい場合や深部にある場合には手術時に強い痛みがあるので、腰椎麻酔下で手術が行われ、4~5日間入院することが一般的です。
また、膿瘍が広範囲に広がっている場合や、細菌感染による全身の合併症が生じている場合などには、手術後に抗菌薬が3~7日間処方されることがあります。
肛門周囲膿瘍の手術治療後は、肛門周囲膿瘍の再発や痔瘻の形成などによって再度手術が必要になる可能性があります。治療後しばらくは外来で経過観察するのが一般的です。
手術によって膿汁が排出された後も膿の出口が残り、その出口から分泌物などの排出が続くと下着が汚れるほか、かゆみなどの症状が現れることがあります。このような状態になると痔瘻という病気に発展したことを疑います。痔瘻では一般的に肛門周囲膿瘍で生じる痛みや発熱などは現れません。また、自然に治ることはまれで、基本的には手術が必要となります。
特に膿がたまったしこりが深部にある場合には、手術後に痔瘻に発展する確率が高いといわれています。ただし、自然に膿瘍が破れて発生した痔瘻より、切開した創から生じた痔瘻のほうがその後の治療計画が立てやすいことから、肛門周囲膿瘍の段階で手術を行うことが望ましいと考えられています。
肛門周囲膿瘍の主な原因は、下痢便が肛門腺などに入り込むことによる細菌感染です。したがって、手術後に肛門周囲膿瘍の再発や痔瘻への発展を防ぐには、下痢をしないように健康な排便習慣を身に付けることが効果的です。
下痢は偏った食生活や冷えなどによって生じることがあります。そのため、暴飲暴食を避け、入浴時はシャワーで済まさず湯船に浸かるなど、体を冷やさないような工夫をするようにしましょう。また、アルコールは飲みすぎると消化管に悪影響を及ぼし、下痢の原因となることもあるので、お酒の飲みすぎに注意しましょう。
肛門周囲膿瘍では手術によって膿汁を排出する必要があります。手術をせずに放置すると膿瘍が破れることにより痔瘻に発展し、肛門周囲膿瘍よりも複雑な手術が必要になる可能性があるため、担当医の指示に従い早めに治療を受けることを検討しましょう。
また、肛門周囲膿瘍は手術治療後も再発のリスクや痔瘻へ発展する可能性があるので、定期的な経過観察が大切です。治療後に気になる症状がある場合や不安なことがある場合には、受診の際に担当医に相談しましょう。なお、肛門周囲膿瘍は下痢便による細菌感染が主な原因と考えられているので、再発防止に下痢を避ける生活習慣を心がけましょう。