末期腎不全になると、透析という治療が必要になりますが、この記事では特に小児の透析療法についてご説明します。引き続き、横浜市立大学 小児科学教室(発生成育小児医療学) 教授の伊藤秀一先生、横浜市立大学付属市民総合医療センター 小児総合医療センター 助教の稲葉彩先生に解説していただきます。
腎不全が進行して末期腎不全になると、食生活の改善や薬などの治療だけでは追いつかなくなり人工的に血液中の余分な水分や老廃物を取り除く治療が必要になります。これを透析といいます。透析には血液透析と腹膜透析の2種類があります。
成人の末期腎不全の透析患者さんでは95%が血液透析を行っているのに対し、小児の患者さんの場合は85%~95%、乳幼児の場合はほぼ全例が腹膜透析を選択しています。小児の患者さんで特に腹膜透析が選択される最大の理由は、腹膜透析は連日夜間に行う透析方法であり、通園や通学に適しているためです。また、小児では体重当たりの水分・食事摂取量が多く、一般的に1~2日おきに週3回行う血液透析では透析間の体重増加、老廃物の貯留が著しくなってしまうためです。
透析というと、多くの方々がが想像されるのは血液透析だと思います。これは腕に手術で太い血管を作成し(これを内シャントと言います)、そこから血液を脱血し透析器に送って循環させ余分な水分や老廃物をダイアライザーというカラムで取り除いてから、再び体に戻す方法です。
しかし、幼少で血管が未熟な小児では内シャントを作成するのは困難であり、ある程度体が大きくなる必要があります。そのため、内シャントの作成が難しい小児に血液透析を行う場合は、首の血管を通じて心臓近くの太い静脈に透析用のカテーテルを留置し、そこから血液を体の外へ送り出して透析を行います。
カテーテルを用いた血液透析を行う場合、カテーテルの慎重な管理が必要となるため、入院しながら透析を行わなければなりません。血液透析の利点は基本的に病院で行う治療であるため、家族の負担はやや小さくなる点がありますが、一方で以下のようにいくつかのデメリットがあります。
これらのデメリットから、血液透析は小児では行いにくい治療です。
腹膜透析とは、私たちのおなかの中にある腹膜という薄い膜を介して、体の老廃物や余分な水分を取り除く治療です。おなかの中の腹腔内(腹膜と内臓の間の空間)に透析液を注入し1~6時間程度貯留すると、時間の経過とともに腹膜を介して体の老廃物や余分な水分が血液中から透析液中に移動します。透析液を腹腔内に注入して貯留しては出すという操作を繰り返すことで、体の老廃物や余分な水分を体の外に出すことができ、腎臓に機能を補う事が出来るのです。
腹膜透析は、1日数回の透析液の交換を必要とします。1日数回にわけて透析液の交換をするCAPDという方法が基本的な方法ですが、小児では寝ている間にサイクラーという自動腹膜透析機を使って注液と排液を自動的に行うAPDという方法がよく用いられます。APDでは昼間の交換をなくすことも可能なため、CAPDよりも日中の自由な時間が増え、登園や登校も可能になります。それぞれの生活スタイルや検査結果によって、個々にあった透析方法や貯留時間や交換回数を調整していきます。
腹膜透析は、内シャントの作成が必要となる血液透析とは違い、おなかの中に腹膜透析用のカテーテルを入れるだけの方法なので赤ちゃんでも可能な治療です。ほかの腹膜透析の利点としては、以下を挙げることができます。
その一方で、腹膜透析の欠点としては以下が挙げられます。
特に3の症状は重篤であり、3の症状が現れる前にいずれ血液透析か腎移植(「小児の腎移植について」参照)に移行する必要があります。
〈参考文献〉 国立成育医療研究センターBookシリーズ 子供の腎炎・ネフローゼ (五十嵐隆 監修、伊藤秀一 編)
〈参考リンク〉 横浜市立大学 発生成育小児医療学教室(小児科学) ウェブサイト