網膜は視覚を得るための大事な組織です。眼の中で網膜がどのような役割を果たしているのかを解説していただいた上で、「裂孔原性(れっこうげんせい)網膜剥離」と「格子状網膜変性」について、滋賀医科大学眼科学講座教授の大路正人先生にお話しをしていただきました。
網膜は球形の眼球の内側に張り付いており、カメラでいうとフィルムの役割を果たす部分です。前方から来た光は角膜、水晶体、硝子体を通って網膜に当たり、像を結びます。網膜に映った像は、視神経を通して、大脳の視覚野へ伝わり、形や色を認識します。網膜のすぐ外側を網膜色素上皮が、さらにその外側には脈絡膜が覆っており、網膜はこの脈絡膜から栄養をもらっています。
網膜剥離は、網膜が網膜色素上皮からはがれてしまう状態を指し、そのために剥がれた網膜は光の刺激を脳に伝えられなくなります。また、剥がれた網膜には栄養が十分行き渡らなくなるため、網膜剥離の状態が長く続くと徐々に網膜の働きが低下してしまいます。
その発症要因一つが「後部硝子体剥離」です。加齢とともにゼリー状の硝子体が少しずつサラサラした液体に変化し、収縮してしまうことによって硝子体とくっついた部分の網膜が引っ張られ、一部が破けてしまうことが原因で起こります。破けたところから液体が網膜と網膜色素上皮のすき間に入り込んでいくために、網膜がどんどんはがれていってしまいます。破れた孔(あな)は馬の蹄のような形に裂けるのが特徴です。発症する年代としては、中高年で特に多くなります
また、頭部、眼球への物理的ショックが原因で網膜に孔が開いて起こることもあります。アトピー性皮膚炎の人に多いといわれたことがありましたが、これはかゆみを抑えるために顔を掻いたり、叩いたりした時の衝撃が原因といわれています。
それはもともと網膜に弱い部分がある場合に、その部分がだんだんと薄くなって、繊維がこすれたときに格子状の組織が見えるまでに伸びきってしまったような状態を指します。そこからさらに進行すると円孔(えんこう)と呼ばれる円い孔が開きます。20代を中心に多く発症し、特に近視の人は眼球が奥に広がり網膜が引き伸ばされた状態になるため薄い部分ができやすくなって起こりやすくなります。中高年では格子状網膜変性の縁が硝子体により引っ張られて、孔が開き、網膜剥離になることもあります。
牽引性網膜剥離は、硝子体などが網膜をひっぱることによって網膜が剥離して起きます。また、網膜から血管が伸びてきて硝子体に張り付いて収縮が起こることによって網膜がはがれてしまうもので、重症の糖尿病網膜症などでみられます。眼球がじゅうぶんに成長出来ていないために起こる未熟児網膜症も牽引性網膜剥離の一つです。
滲出性網膜剥離は、脈絡膜や網膜色素上皮側から何らかの原因で滲出液があふれてきて網膜が浮いてしまいはがれてしまう状態になります。主にぶどう膜炎などでみられる症状です。