白内障は、目の中にある水晶体という組織が白く濁ってしまうことにより視力が低下する病気ですが、手術によって高確率で回復させることができます。家族や近い親族の方で白内障手術を受けたことがある方もいるのではないでしょうか。この白内障手術を受ける際、手術料を支払う必要があります。手術料という言葉から高額なイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、白内障手術は効果が高く、患者さんのニーズにも十分こたえられています。このように、費用と効果を同時に比較する方法として「費用対効果」という考え方があります。今回は、白内障手術について、その実態を踏まえながら、費用対効果という面を中心に順天堂大学眼科学教室先任准教授の平塚義宗先生にお話しいただきました。
眼科には様々な病気がありますが、特に多いのが白内障という病気です。白内障は加齢による水晶体の濁りであり、70~80代になればほとんどの方が発症します。実際、眼科にいらっしゃる患者さんのうち3割程度は白内障の患者さんです。
白内障の治療には手術が行われます。患者数が膨大なため眼科における手術の8~9割は白内障手術となっています。
白内障手術は、眼科医の立場から述べるならば「自信をもって世の中に勧められる手術」です。
白内障手術は非常に効果が高く、ほとんどの患者さんが手術後のご自身の見え方に満足しています。また、白内障手術は非常に標準化された手術でもあります。過去数十年にわたる先生方の多大なる努力と教育によって、白内障手術の教科書やトレーニング法、教育法などが確立されているのです。
結果、現在日本で行われている白内障手術は確度・精度・安全性・要する時間、すべてにおいて非常に完成度の高いものとなり、日本全国どこにいっても高品質の手術を受けることが可能となっています。効果が高くニーズも多いため、白内障手術の件数は年間で100万件程度と、日本の手術の中で一番多く行われている手術です。ほかにも骨折整復術や腸のポリープ切除、創傷処理や中耳炎の鼓膜切開などが手術件数の多い手術ですが、それらに比べても圧倒的な数を誇ります。
白内障手術には良い点がたくさんありますが、日本で最も多く行われている手術と考えると医療経済的な評価も必要でしょう。つまり効果が高いのはわかったが、投入される医療費に対する効果という意味での費用対効果はどうなのかという点です。
世界銀行の報告では、成人に対する費用対効果の高い治療法が確立している疾患として貧血・肺がん・子宮頸がんと同時に白内障が挙げられています。では、現在日本で日常的に実施されている白内障手術の費用対効果はどうなのでしょう。
医療介入(医薬品や医療器械、医療技術等)の費用対効果を検討する際、国際的によく使用される指標にQuality Adjusted Life Years(QALYs)があります。1QALYは「完全な健康状態で1年間生きるときのQOL(生活の質)総量」と定義され、効果の指標として用いられます。
費用は分析の立場によって違いますが、公的医療費が用いられることが多いです。費用効用分析では、その医療介入によって1QALYを得るのにどの程度の費用が必要とされるかを評価します。この値が低いということは、安い費用で「完全な健康状態での1年間」を得ることができるということですから、費用が低ければ低いほどよいということになります。
一般に、1QALYを得るのにUS$50,000以下(US$1=123円で615万円)であれば、非常に費用対効果の高い治療といわれています。
我々の研究では、無治療の患者さんに対する白内障手術によって1QALYを得るのに必要なコストは15~6万円程度であり、極めて費用対効果の高い治療であるということが明らかになりました。また、白内障患者10万人が手術をしない状態で20年間過ごすと1,998人が失明しますが、手術を行うことで失明者を4名に減らすことが可能であるということもわかりました。
白内障手術の効果は視力の改善だけにとどまらず、その延長として、実際に患者さん自身の日常生活も大きく改善するということが明らかにされました。具体的には、手術前に比べて手術後、患者さんの行動だけでなく、運転、視野、社会生活機能や役割制限、心の健康なども大きく改善することがわかっています。また、手術後には読書速度が飛躍的に改善し、転倒のリスクが34%、股関節骨折が23%、交通事故の発生頻度が13%減少します。
それだけではありません。認知症や抑うつ状態も視覚QOLと並行して改善することも明らかになっています。現在、社会の大きな問題となった介護においても、その予防策として白内障手術は大きな役割を果たすことが可能です。
白内障手術は、高費用対効果という梃子を効かせ視覚障害最大の問題を解決し、社会の生産性も大きく改善させている、大変優れた医療技術であるといえるのです。
・テーマ:発達障害の特徴と対応(30分~60分程度) ・講師:小児科医師(専門:児童精神医学) |
・テーマ:体に優しい心臓手術(40分) ・講師:心臓血管外科医師 |
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