顔面神経麻痺の患者さんが知りたいことは、「治るのかどうか」に加えて「いつ治るのか」ということではないでしょうか。名古屋市立大学病院診療科部長の村上信五教授は、麻痺が治るまでの経過をより正確に予測するための診断プログラムを開発するなど、患者さんの疑問に応えるためのさまざまな研究に取り組んでおられます。今回は顔面神経麻痺の予後予測についてうかがいました。
前の記事「顔面神経麻痺の原因-発症原因の多くはウイルス感染である」でも申し上げたように、経験を積んだプロフェッショナルの医師が麻痺の症状を見れば、その人が治るかどうかはかなり正確に見極めることができます。まぶたが完全に閉じられるかどうか、口がどの程度閉じられるかといったところを診て40点法でスコアをつけるのですが、医師の中でも経験の差があるため、その評価点数にばらつきがあります。客観的な評価が得られていないということが課題になっています。
患者さんの知りたいことというのは、次の3つに集約されていると考えます。
これらの問いに対して、私たちはプロフェッショナルとして応えていかなければなりません。
診断ができて治療ができるだけでは十分とはいえません。予後の診断ができるということが大切なことです。そのためには顔面の動きを評価するスコアや誘発筋電図による電気診断が必要です。
重症度診断がなぜ必要かというと、同じ病気でも重症度によって治療を変える必要があるからです。そしてもうひとつの理由は、麻痺の予後予測をするためです。
「40点法(柳原法)」という評価法で、額のしわ寄せ、頬をふくらませるなど、顔面の部分の動きを10項目に分けます。麻痺がなく正常であれば4点、部分麻痺なら2点、高度な麻痺は0点というように、それぞれの項目を0点〜4点で評価します。
(図:村上信五先生提供)
麻痺発症から1年間スコアをつけていくと、軽い症例はすぐに点数が良くなって早く治ることがわかります。一方で重症例はその治癒曲線になかなか追いついて行きません。40点法で一週間以内に12〜14点以上あれば治る、あるいは1ヶ月経っても20点を超えている人は治るなど、将来どのような経過をたどるかを予測することができます。
診断する医師の個人差による点数のばらつきを標準化するために自動診断プログラムを開発しています。2,200の症例データから、麻痺発症何日目で何点の症例が将来どのような経過をたどるかが分かるようになります。
(図:村上信五先生提供)
患者さんの顔の動きを動画で撮影し、3Dでスキャンすると点数化されるというシステムを研究しています。こうすることで医師の主観的な判断ではなく、客観的な評価ができることを期待しています。