顔面神経麻痺になった人が感じる不安や疑問には、さまざまなものがあります。この記事では実際によくある質問とその答えをQ&A形式にまとめました。回答者は名古屋市立大学病院診療科部長の村上信五教授です。
A.顔面神経麻痺の患者さんは、最初にどの科に診てもらったら良いか分からないことが多いかと思います。総合病院であれば、総合案内で問い合わせば教えてくれます。耳鼻咽喉科のすべての医師が顔面神経麻痺を専門に診療しているわけではなく、病院によっては内科であったり、麻酔科、リハビリ科、形成外科、脳神経外科など異なります。日本顔面神経学会(旧・日本顔面神経研究会)はいろいろな診療科の医師が合同して作ったものです。一番多いのは耳鼻咽喉科ですが、脳外科もいれば形成外科もいるという、各科混合した学会です。
ただ、ベル麻痺やハント症候群などにおいて、早期の診断・治療・手術まで総合的に診療が行えるのはやはり耳鼻科です。そして、麻痺発症3ヶ月以降ではリハビリ科、1年以上経っても治らなければ形成外科の出番になります。このように発症からの時期によっても受診する診療科は変わってきます。なぜ耳鼻科が診ることが多いかというと、顔面神経麻痺が起こる原因となる場所が耳のある側頭骨なのです。原因が脳の中であれば脳外科が診ますし、全身的なギラン・バレー・症候群やサルコイドーシスであれば内科ということになりますが、頻度は非常に少ないです。
頭蓋底骨折など外傷による麻痺は、ベル麻痺やハント症候群に次いで多いものですが、骨折によって骨が神経を圧迫することによって起こるので、重症例では顔面神経減荷術が有効です。
A.ベル麻痺の前駆症状として後頭部の鈍痛を訴える人が多い(6 〜7割)のに対し、ハント症候群では耳の中の強い痛みが多いことから、強い痛みや耳の中の痛みを訴える場合にはハント症候群であるを疑ったほうが良いと思います。
耳後部痛や耳の痛みなど、前駆症状だけで病院を受診した場合、麻痺がないために単なる頭痛や外耳炎と間違えられて鎮痛薬や抗生物質を処方されることも少なくありません。3日ほど経って顔面神経麻痺が起こったとしても、患者さんは不信感で他の病院を受診しまうことが多いため、最初に受診した医師が顔面神経麻痺の前駆症状を見落としたことに気づくことはなかなかありません。
耳介に帯状疱疹が現れ、数日遅れて顔面神経麻痺が起こることがあると知っている医師の場合は、帯状疱疹で受診した時点で患者さんに「麻痺が出るかもしれませんよ」とあらかじめ伝えることが大切です。そうすればその患者さんは麻痺が出た時点で再度同じ医師を受診して、適切な治療を受けることができるかもしれません。
A.麻痺が出た直後は症状が軽くても、その後3日目ぐらいまでの間に急に悪くなることがあります。一番悪くなったときでも比較的軽度であれば、その後良くなる可能性が高いですが、麻痺が重症の場合には、その程度によって治療法を変えていく必要があります。
たとえば麻痺が出た日に初めて病院を受診した患者さんは、3日後に麻痺が悪化したと思われる場合には、1週間後の再診予約日を待たずにすぐに診てもらったほうがよいでしょう。また、発症してすぐに受診できなかった場合は、初診の際に今、発症から何日目で、どのような経過だったかを医師にきちんと伝えるようにして下さい。
A.ハント症候群による顔面神経麻痺は再発することはまずありませんが、若いときに発症した後、20〜30年も経てば再発することもあり得ます。ベル麻痺の場合は全体の約7%に再発がみられるといわれています。特に糖尿病の人はベル麻痺の再発率が高く、30%ほどになります。糖尿病はさまざまな神経障害を引き起こすことから、顔面神経麻痺においてもリスクファクターとなります。