下咽頭がんは、空気や飲食物の通り道である“咽頭”のうち、もっとも食道に近い部分にできるがんです。目に見えない位置にあるため発見が遅くなりやすく、咽頭がんの中でも治療が難しいがんといわれています。では、下咽頭がんはどのような原因で起こるがんなのでしょうか。また、症状や診断までの流れはどういったものなのでしょうか。
本記事では下咽頭がんの発生部位や原因、症状、検査について詳しく解説します。
下咽頭は咽頭と呼ばれる器官の一部です。咽頭は鼻の奥から食道まで空気や飲食物の通り道となる器官のことで、上咽頭、中咽頭、下咽頭の3つの部位に分かれています。そのなかでも下咽頭は咽頭の中でもっとも食道に近い部分であり、喉仏の裏のあたりから食道までの部分を指します。
また、下咽頭はがんが発生する部位によってさらに“梨状陥凹(食道入口部)”“輪状後部(喉仏の裏側)”“後壁(口蓋垂の奧)”に分けられ、亜型として“梨状陥凹がん”“輪状後部がん”“後壁がん”に分けられることもあります。
日本では、1年間に約1,900人が下咽頭がんと診断されています(2014年のデータ)。同年に新たにがんと診断された総数から下咽頭がんの占める割合は1%未満であり、比較的めずらしいがんの1つといえます。
また、下咽頭がん全体では50~70歳代で発生しやすく、女性よりも男性に多い傾向があります。ただし、下咽頭がんの亜型である輪状後部がんは男性よりも女性に多い傾向となっています。
飲酒と喫煙は、下咽頭がんの発生にもっとも強く関わっているといわれています。よって飲酒量の多い人やヘビースモーカーの人は下咽頭がんのリスクが高くなると考えられています。また、飲酒で顔が赤くなりやすい人はそうでない人に比べて下咽頭がんにかかりやすくなるといわれています。
下咽頭がんの中でも輪状後部がんは男性よりも女性に多いといわれています。これは、鉄欠乏性貧血が原因で起こる“プランマ―ビンソン症候群”と呼ばれる症状がこのタイプの下咽頭がんの発生に関わっており、女性のほうが男性よりも鉄欠乏性貧血を起こしやすいことが理由の1つであると考えられています。
下咽頭がんの主な初期症状は、喉の痛みや飲み込むときの違和感(喉のつかえ)、喉の痛み、声のかすれなどです。しかし、下咽頭がんは初期症状に乏しいことが多く、ある程度進行するまで目立った症状が現れないことも少なくありません。
なお、最近では上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)による検診で下咽頭早期がんが偶然見つかることも多くなってきました。
下咽頭がんが進行すると、声のかすれや息苦しさを感じるようになることがあります、また、下咽頭がんは首のリンパ節に転移しやすく首の周りにしこりができることもあります。
したがって、喉の違和感や食べ物がつかえる感覚、首の周りのしこりなどの気になる症状がある場合は耳鼻咽喉科を受診するようにしましょう。
下咽頭がんの検査ではまず、喉頭鏡や内視鏡といった器具を使って下咽頭の状態を観察します。また、下咽頭がんは食道に近く食道がんや胃がんを併発していることがあるため、胃カメラを使用して食道や胃の様子を観察することもあります。
下咽頭がんはリンパ節への転移を起こしやすいため、首の周りを慎重に触ってしこりの有無を確認する触診も重要な検査の1つです。上記の検査により下咽頭がんを疑う部位があった場合は、確定検査のために組織の一部を採取して顕微鏡で観察する生検を行います。
また、体の断面図を撮るCT検査やMRI検査、体の内部を観察するエコー検査などを用いてがんの位置や大きさ、ほかの臓器への転移の有無などを調べることもあります。
下咽頭がんは症状が現れにくく目に見えない位置にあるため、早期発見が難しいがんの1つです。そのため、明らかな痛みがなかったとしても、気になることがあれば早めに医療機関を受診するようにしましょう。また、下咽頭がんの発生に関係していると考えられている飲酒や喫煙習慣がある方は、下咽頭がんの発生のリスクを避けるためにも日頃の生活習慣を見直すとよいでしょう。