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人工中耳と骨導インプラント―難聴治療の最前線(2)

従来は治療が困難だった高度難聴についても、医療機器の助けによって聞こえにくさを補う人工聴覚手術が可能となっています。これまで300例以上の手術を手がけている人工聴覚器のスペシャリスト、国際医療福祉大学三田病院 耳鼻咽喉科の岩崎聡先生に、最先端の人工聴覚器についてお話をうかがいました。今回は人工内耳と骨導インプラントについての話題です。

補聴器は増幅した音声を空気振動として外耳道に送る仕組みになっています。これに対して人工中耳は、中耳の中で音を伝える耳小骨を直接振動させる役割を果たします。関連記事でご説明している人工内耳とよく似ていますが、蝸牛の中に埋め込まれた電極ではなく、先端にある振動子と呼ばれるパーツが耳小骨に直接振動を伝える仕組みになっています。

振動子はマグネットとコイルから構成されていて、コイルに電流を流すことでマグネットが振動します。人工内耳と同じように外部からの音声はいったん電気信号に変換・調整されますが、それを再び振動エネルギーに変えて伝えています。

慢性中耳炎などで鼓室形成術(中耳の機能を再生する手術)を受けても難聴が改善しなかった場合、この人工中耳で治療することができます。鼓室形成術ではうまく動かなくなった耳小骨を人工物や軟骨などで再生し、鼓膜から内耳へ音を伝えるつながりを修復しますが、聴力が充分戻らないケースもあります。

また、外耳道がふさがっている、あるいは変形や狭窄(きょうさく・狭くなっていること)のため補聴器が使えない方にとっては有効な治療法です。補聴器より音質がよく、外耳道に器具を挿入する必要がありません。

日本では2014年に臨床治験が終わり、2015年9月に薬事収載されました。近いうちにこの治療を受けられるようになりますので、この人工中耳についても、ぜひ皆さんに最新情報を知っておいていただきたいと思います。

耳の後ろの頭蓋骨に、音声を伝える振動端子を手術によって埋め込みます。振動端子に接続したサウンドプロセッサが音声をデジタル処理して振動に変換し、頭蓋骨の骨伝導を利用して側頭骨から内耳(蝸牛)へ振動を伝えます。このとき、外耳や中耳を介することはありません。

この治療の対象となるのは、前項でご紹介した人工中耳と同様に、中耳炎の手術で聴力が戻らない方、外耳道が閉鎖して補聴器が使えない方です。

骨固定型補聴器が2012年に日本でも健康保険で使えるようになっていますが、頭蓋骨に埋め込んだ接続端子が皮膚から露出しているため、周囲に炎症を起こすことがあります。

しかし、すでにこの欠点を解消した骨導インプラントもあります。体外部と皮下に埋め込むセンサーが磁石でくっつくので、頭皮から突出するパーツがありません。国内ではここ国際医療福祉大学と信州大学、長崎大学、岩手医科大学の4施設で実施されましたが、この骨導インプラントによる治療を今後広く普及できるように、努力しているところです。