滲出性(しんしゅつせい)中耳炎という診断名はあまりなじみがないかもしれませんが、多くの子どもが小学校に上がる前に一度はかかっていることが知られています。子どもに多い病気ですので、小児科と耳鼻咽喉科のどちらで診てもらえばいいのだろうと悩む保護者の方もいらっしゃることでしょう。
2015年1月に小児滲出性中耳炎の診療ガイドラインが刊行されました。このガイドライン作成にあたって尽力された耳鼻咽喉科医師のひとりである、東京北医療センターの飯野ゆき子先生に、滲出性中耳炎とはどんな病気なのかをうかがいました。
滲出性中耳炎は、中耳すなわち鼓膜の内側に貯留液(粘膜からにじみ出た液体がたまっているもの)があり、難聴(聞こえにくい)や耳閉感(耳が詰まった感じ)などの症状があらわれる病気です。急性期の中耳炎とは異なり、耳の痛みを訴えることはありません。
また、成人の滲出性中耳炎もあり、俗に「隠れ難聴」などとも呼ばれますが、原因や病態は子どものそれとは異なることが多いです。
小さいお子さんがかかる小児滲出性中耳炎には二通りの発症パターンがあります。ひとつは耳の痛みをともなう急性中耳炎を起こした後、なかなか水が引かずにジトジト残ったまま滲出性中耳炎に移行するパターンです。もうひとつは風邪にともなって上気道感染を起こし、そのときに耳の痛みはないまま水がたまって聞こえが悪くなるというパターンです。
いずれも耳管(中耳と鼻咽腔をつなぐ管状の部分)の開閉機能が未熟であることと感染による炎症が要因となっています。耳管の機能が健全であれば、感染症による炎症で分泌液が増えても耳管を通して排出されるのですが、耳管の機能に問題があるとうまく排出されずに中耳内で貯留液となってしまいます。
大人の滲出性中耳炎の場合は、耳管が固くなって開閉の機能が悪くなるために、風邪をひいたとき発症し、なかなか治らないといったことが原因になります。もうひとつ近年注目されているのは好酸球性中耳炎です。
喘息(ぜんそく)の患者さんは末梢血に白血球の一種である好酸球が増えています。中耳も気管支と同じ気道の一部なので好酸球が活性化されやすく、中耳の粘膜で好酸球が原因となる炎症を起こします。貯留液は成人の通常の滲出性中耳炎に比べて粘っこく、お餅のようになります。
好酸球性中耳炎は成人の通常の滲出性中耳炎とはまったく別物であり、難聴が悪化しやすく、むしろ難治性中耳炎の一種ともいえます。このほか、上咽頭に腫瘍がある場合など、大人の滲出性中耳炎(もしくは類似する病態)には、その背景としていろいろな疾患が潜んでいるケースがあるため、注意が必要です。
一般的な中耳炎の例にもれず、滲出性中耳炎もまた耳管機能が未発達な子どもがかかりやすい病気といえます。就学前に9割の子どもがかかるとされています。
大人の好酸球性中耳炎の場合には、前項でご説明したように喘息の患者さんがかかりやすく、その他には好酸球性副鼻腔炎を併発している方もリスクが高くなります。
内視鏡などで観察すると、鼓膜をとおして貯留液の存在(滲出液がたまっている様子)がわかります。貯留液が少しの場合は水面に鏡面像(niveau)がみられます。貯留液の性質や粘膜の状態によって、鼓膜の色がやや赤みを帯びた褐色・山吹色・青色などに見えます。また、気密鏡という器具を使って鼓膜の可動性を確かめます。通常、中に貯留液があると鼓膜の可動性は低下します。
また好酸球性中耳炎の鼓膜は黄色になるのが特徴です。